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さまざまな睡眠障害

投稿日:2015年1月23日 更新日:

さまざまな睡眠障害

不眠症を診断する

眠れない人々
私はフロリダ大学で生理心理学を学び、博士号を取得した。その後、カリフォルニア大学サン・ディエゴ校へ移り、精神医学部の睡眠研究室で研究を続けることになった。フロリダからアメリカを横断し、西海岸へと移動したわけである。
当時の研究室長はダニエル・クリプケであった。クリプケはかつてコンピューターの研究にのめりこんでいたのだが、やがて精神科の道へ進み、睡眠科学を専門とするようになった。彼の当時の関心は、生物におけるリズム現象の解明だった。生体リズムなら、私も興味をもっていた分野である。クリプケは、私のためにある製薬会社から研究助成金を取ってくれた。この助成金があったからこそ、私は彼のもとで研究を続けることができたのである。
クリプケ研究室における私の研究テーマは不眠症の治療だった。つまり、不眠症治療薬の研究である。もちろん、自由になる夜もたくさんあったので、不眠症の治療だけでなく、さまざまな研究テーマに取り組んだ。そして同時に、実際の患者を診察して、臨床的な経験を積むこともできた。
1970年代初頭、睡眠障害患者を診察しようにも、実際に研究室で患者をあつかったことのある専門家の数はほんの一握りしかいなかった。アメリカの場合、臨床研究に力を入れている例外的な睡眠研究室もあるにはあったが、たいていの場合、睡眠実験といえば、睡眠薬のテストが目的であった。じつのところ、睡眠記録の便利さにいち早く気づいたのは製薬会社だったのである。つまり、薬の効き目について調べる際、患者の主観的な報告を参考にするのではなく、睡眠研究の専門家による客観的な観察と評価を利用すれば、正確で有効な判断が可能になる。専門の睡眠研究所でテストを受ければ、商品としての薬の価値が上がり、宣伝効果が期待できる?製薬会社はこの点に目をつけたのである。
サン・ディエゴの睡眠研究所は病院の中にあった。そのおかげで、研究所に在籍した一年間、私はかなりの数の不眠症患者と接することができた。また、何人かのナルコレプシー患者を診察する機会も得た(ナルコレプシーは睡眠障害の一種で、日中に生じる突然の睡眠発作と脱力発作を特徴とする)。私は、睡眠障害に苦しむ患者と接するうちに、「よい眠りとは何か」という問いのむずかしさを、たちまち実感することとなった。
人はふだん、自分の眠りの質について、さして注意を払わないのが普通である。たいてい調子が悪くなって初めて、睡眠について意識し始める。「調子が悪い」といっても、自分で気づく場合もあれば、ともに暮らす家族にしかわからない場合もある。睡眠障害の症状は、けっして一様ではない。寝つきが悪いとか、何度も目が覚めるなどといったケースもあるし、場合によっては、夜中に目ざめた後、ふたたび眠ることができないというケースもある。逆に、襲ってくる眠気にさからうことができず、意志に反して眠りこんでしまうケースもある。
患者がどのようなタイプの睡眠障害に悩んでいるのか、そしてその原因は何か?診断はまず問診から始まる。眠りについて質問されると、患者は自分の印象にもとづいて答えを返してくる。つまり、起床後の自分の体の調子から、前夜の眠りの質を判断しているのである。患者が自分の眠りを「分析」することはできない。眠っている本人が、レム睡眠の回数や深睡眠の持続時間を知ることは不可能である。
朝起きたとき、心身ともに爽快で、頭も冴え、世界が鮮やかにくっきりと見えるとすれば、私たちは「よく眠れた」と感じる。こうしたさわやかな目ざめの後ならば、毎朝のあいさつも特別な意味あいをもつだろう〔ヘブライ語でも英語でも、朝のあいさつを直訳すると、「すばらしい朝」となる〕。
だが、寝起きが悪く、さわやかな目ざめなど夢のまた夢だと訴える人もいる。もちろん爽快な目ざめをまったく知らないわけではなく、ごくまれにしか体験しないのである。中には、毎晩眠れなくて苦しんでいる人もいる。たとえば、なかなか眠れずに悶々とベツドで過ごす人もいるし、寝つきは悪くないのだが、一時間かそこらで目ざめてしまい、2度と眠ることができなくなってしまう人もいる。また、寝つきがよく、一晩中眠っていたはずなのに、朝起きてみると、頭が重い、体が疲れている、思考能力がにぶい、物事への感受性が低下している、といった症状に悩む人もいる。「眠ると結局疲れてしまうんです」と彼らはいう。「眠れば眠るほど、朝起きたときの疲労感が高まる」と訴える人もいる。こうした人々は朝に弱く、起床直後の状態から抜け出して「正常」な状態に戻るまで、かなりの時間を必要とする。
夜眠れない、あるいは、眠れたとしても起き抜けの調子がよくない、という症状以外にも、睡眠障害はさまざまなかたちをとって現れる。たとえば、睡眠とは直接関係のない行動、たとえば夢遊症、寝言、歯ぎしりといった行動が観察されることもある。これらの症状は睡眠中に生じるわけだが、本人がまったく自分の行動を意識しないところに特徴がある。
よい眠りと悪い眠り。さわやかな気分で目ざめる人と、疲れた顔で目ざめる人。この差はいったいどこからくるのだろうか。本章以降で述べるように、そこには、心理的な要因、身体的な要因など、さまざまな要素がからんでくる。

「先生、一睡もできないんです」

不眠とは何か。論理の糸をつむぎ、思考を積み重ね、知性そのものの意味について考えをめぐらせることだ。目を閉じて眠るという愚かなまでの幸せを否定し、そこに身をゆだねることを拒否する姿勢。
夢の世界が開示する世界、すなわち、どこか意味深げな、しかし愚かな世界に遊ぶことを拒否する態度。
そして、異常なまでの執拗さで思考を続けること。それ以外に不眠の意味があるだろうか? 不眠、(中略)それは、世界の中にあって、ただ受け身の状態で流されていくことを、多かれ少なかれ意識的に否定する態度と結びついている。(マルグリット・ユルスナール「ハドリアヌス帝の回想」より)すでに述べたように、人間が必要とする睡眠時間は一定ではなく、個人差が非常に大きい。たとえば、5〜6時間の睡眠で十分な人もいるし、9時間以上眠らないと調子が悪いという人もいる。健康な人であっても必要とする睡眠時間にこれだけの幅がある。そしてその事実が不眠症の診断をさらに困難にする。毎晩6時間眠る人が本当は8時間眠らなければならないと信じこんで不眠を訴えるケースもあれば、毎晩8時間眠っているのに、10時間は眠らないと調子が悪いと訴える場合もある。こうした不眠の訴えを、どちらも同じレベルであつかっていいものだろうか? テクニオン睡眠研究所には、どちらのタイプの患者もやってくる。しかも彼らは、自分の睡眠障害をかなり重度のものとして訴える。
要するに不眠症の診察は、患者自身の自己評価にもとづいて行なわれる。もちろん計測器などを使って客観的なデータを記録することも診察の手がかりとなるが、まず診察の基本となるのは、自分の眠りの質と量についてどう感じているかという、患者の主観的な判断である。この判断は患者の睡眠観によって千差万別であり、眠りをどこまで重視するかどうかによって左右される。その結果、研究者としては困ったことだが、患者の訴える内容と、客観的な診察結果がまったく食い違うことも起こりうる。
不眠症の原因を診断するにあたっては、次の4点に注意すべきである。
まず第一に、患者の訴えをきちんと把握しなければならない。「先生、一睡もできないんです」と訴える患者が、みな同じ症状に悩んでいるとはかぎらない。「一睡もできない」といっても、実際の症状は千差万別である。
不眠症にはさまざまなタイプが知られている。頻繁に報告される症状としては、寝つきが悪い(入眠障害)、頻繁に目ざめる(中途覚醒)などというタイプがある。これらの症状は、組み合わさって現れることもある。つまり、寝つきが悪い上、頻繁に目ざめる、などといったケースである。また、朝の目ざめが早い(早朝覚醒)、夜中に一定の時間間隔で目ざめる(特定の睡眠段階と結びついた中途覚醒)といった症状も知られているが、入眠障害や通常の中途覚醒ほど多くはない。
大切なのは、睡眠障害のタイプをよく把握することである。症状をくわしく分析すれば、それだけ原因を正確につきとめることができる。つまり、適切な治療を行なうにあたって、病態を正確に把握することは診断の第一ステップである。
第2に、患者の訴える症状がいつ始まったのか、その時期を明らかにしなければならない。これも診断においては非常に重要なポイントとなる。つまり、急性症状と慢性症状では、診断結果に大きな差が生じる。たとえば、近親者の死、失業、離婚など、ストレスの大きいできごとに直面した場合、突然の反応として不眠症状が現れることがある。また、慢性的な身体疾患が原因となり、長年にわたって不眠が続くこともある。
場合によっては、幼少期の体験がもとになって、不眠を引き起こしていることもある。
第3に、睡眠障害の重症度を知ることが大切である。というのも、睡眠障害の程度は患者ごとに異なり、あらゆるかたちのヴァリエーションが存在するからだ。たとえば、毎晩かならず不眠症状に苦しんでいる患者もいれば、たまに眠れないというだけの患者もいる。もし、症状がインタヴァルをおいて繰り返されているようであれば、いつ不眠が生じているのか、その状況を正確に把握しなければならない。何か生活上の変化が不眠の引き金となっている可能性もある。たとえば、休暇に入ると不眠を訴える人もいるし、長期旅行のあいだ眠れなくなる人もいる。また、何か患者の身辺にストレスの原因となるできごとが起きたのではないか、という可能性も探る必要がある。
第4に、睡眠障害が患者の日々の生活にどのような影響を与えているか、その状況を調べることも重要である。たとえば、夜眠れないために毎日の仕事の能率が極端に落ちこんだり、生活に差し障りが生じたりするような患者と、眠れないことが気になるだけで、昼間の生活にはとくに影響はないという患者では、当然対処のしかたを変えなければならないはずだ。
以上のように、症状のタイプ、症状の出現時期と出現時の状況、障害の重症度、障害が日々の生活に与える影響、などに注意して診察すれば、障害の原因について、より正確な判断を下すことができるし、適切な治療をほどこすことができる。
事実、テクニオン睡眠研究所では、不眠を訴える患者を診察する場合、最初の問診を大切にする。場合によっては、問診だけで十分な診断を下すことも可能だし、問診だけですめば、わざわざ睡眠検査に一晩かける必要もなくなる。では、不眠症の種類にはどのようなものがあるのか、その特徴をタイプ別にくわしく述べていこう。

ストレスが引き起こす不眠症

眠りは精神のバロメーターであり、心の状態を正確に映し出す。緊張を強いる事態や不安に満ちた体験は、たちまち眠りを損なうことになる。場合によっては、生体内のどのシステムよりも早く、睡眠に心の影響が現れるのである。
家庭生活にまつわるトラブルや、金銭面でのトラプルなど、各人の人生にかかわってくるような大きなできごとも不眠症の原因となる。そうした場合の不眠症は、症状の出現時期をはっきり特定できるのが普通である。たとえば、「夫との離婚手続きを開始したのは199一年3月一日でした。その日から眠れなくなってしまったのです」とか、「妻に先立たれてからというもの、2〜3時間しか眠れないんです」などという訴えが患者の口から報告されることとなる。
もちろん、こうした重大な事態に直面すれば、不眠におちいるのはごく自然な反応である。ストレスによって神経が過敏になり、不安な思いがつのっているときに、ふだんどおりに生活しろという方が無理だろう。
とくに、何もせずじっとしているときなど、不安がふくらみやすい。マルグリツト・ユルスナールの作中人物、ハドリアヌス帝の言葉をもう一度引用しよう?「不眠とは何か。論理の糸をつむぎ、思考を積み重ね、知性そのものの意味について考えをめぐらせることだ。(中略)そして、異常なまでの執拗さで思考を続けること。それ以外に不眠の意味があるだろうか」。まさに、神経ばかりが過敏になり、不安が拡大し続ければ、寝つきが悪くなるのは当然の結果である。
したがって、「状況性不眠」〔精神的なトラプルなどによって引き起こされる不眠。「状況因性不眠」ともいう〕の場合、入眠困難がいちばん特徴的な症状であり、中途覚醒はあまり見られない。つまり、一度眠りについてしまえば、朝までよく眠れることが多いのである。
以上のように、状況性不眠は原因もはっきりしており、比較的急性の症状である。つまり、ストレスの多い環境、不安に満ちた状況に対する心的反応の一種と考えることができる。

湾岸戦争と不眠症

状況性不眠は個人的な体験から引き起こされることが多い。しかし、特殊な状況のもとでは、大勢の人々が同じ危機に直面し、同時に眠れぬ夜を過ごすこともありうる。
私がじかに観察した例としては、湾岸戦争時におけるイスラエル人の状況性不眠があげられる。これほどユニークな事例は、なかなか体験することができないと思う。
イスラエルに対するスカッド・ミサイル攻撃は、のべ39回に達した。そのうち38回までが、暗くなってからの夜間空襲である。イスラエル人は戦争という非常事態に比較的慣れている国民なのだが、スカッド・ミサイルの脅威には神経をすり減らした。警報から空襲までの時間的余裕があまりなく、しかも、ミサイルに化学兵器が搭載されているという情報は不安を拡大させた。化学兵器の脅威から国民を守るために、これまでにない規模の防衛手段が講ぜられたが、そのことがさらに不安を呼び起こしたのである。したがって、国民の多くが、夜の眠りを恐れていたのも当然だったといえる。
警報が鳴っても目が覚めないのではないか、あるいは、目ざめたとしても、豚脂とした意識の中では動作もにぶく、ガスマスクの装着やシェルターヘの避難もままならないのではないか。こうした不安を当時の人々はいだいていた。まさに、戦争に対する恐怖が睡眠障害を引き起こしていたのである。当時行なわれた調査によると、イスラエル人(成人)の3分の1が、入眠困難と中途覚醒を訴えたという。
とくに、ミサイル攻撃の主要目標地点であるハイファとテル・アヴィヴではこうした症状を訴える人が多く、戦争前にくらべると、不眠に苦しむ人の数は3倍にもおよんだと報告されている。
戦時下にあって、テクニオン睡眠研究所もいったん閉鎖されることとなったため、私たちも診察に時間をとられることはなくなった。そこで私たちは、輸送可能な睡眠計測器を使って、人々の眠りを調査することにした。つまり、私たちの方から出かけていって、そこで睡眠記録をとったのである。目的は、ミサイルの脅威が眠りに与える影響を調べる・ことだった。この調査によって、20人の成人と50人の子どもの眠りを記録することができたわけだが、その結果は驚くべきものであった。すなわち、空襲のあった夜もなかった夜も、人々の眠りに異常を認めることはできなかったのである! もちろん、実験中に警報が鳴れば、被験者は起きて避難しなければならないわけだが、そうした特殊な状況を除けば、大人も子どももごく普通の睡眠状態を示した。当初、私たちは記録装置の故障をうたがっていたのだが、睡眠研究所で同じ実験を行なっ
たところ、やはり結果に差は出なかった。
戦争が短期間で終結しそうにもないようすなので、私たちは研究所の一角に避難用のシェルターを準備し、実験を続行することにした。実験には10の被験者が協力してくれた。ただし、夜間警報が鳴り響いたときは、記録担当の技師が被験者を起こし、実験装置を取り外す。そして、ガスマスクを装着させてからシェルターヘ避難させるという手はずになっていた。
ミサイルの脅威による非常事態が睡眠にどう影響するか、などという実験が睡眠研究所で実施されたことはこれまでなかったはずだし、今後もふたたび行なわれる可能性はほとんどないだろう。協力してくれた10人の被験者は、睡眠研究史上もっとも勇気ある被験者グループとして、科学史に名をとどめるにちがいない。
研究所での実験結果は、被験者の自宅で行なった実験結果を裏切るものではなかった。つまり、空襲時を除いて、睡眠に異常は認められなかったのである。私たちの研究所は、これまで何千人という被験者の眠りを記録してきたわけだが、その実験データとつきあわせてみても、空襲の脅威が眠りを損なっているという証拠は得られなかった。実際、空襲が終わり、非常事態解除のサイレンが鳴った段階で睡眠検査技師が被験者を実験室に連れ帰り、ふたたび実験装置を装着するわけだが、驚くべきことに、被験者がふたたび寝入るまでの時間は、長くてもほんのコー分にすぎなかった。
ではいったい、戦時下で不眠が急増したという調査報告と、人々の睡眠は正常であるという実験結果の矛盾を、どう解釈すればよいのか? 私たちは、被験者の自宅だけでなく、研究所でも実験を行ない、記録装置を用いて客観的なデータを記録したはずなのだ。
この問題に関して、私は次のように考えている。すなわち、人々のあいだで不眠の訴えが高まり、その現象がマスコミの関心を集めた。そして、マスコミの報道を耳にした国民がさらに不安感をつのらせた。という一種の循環作用が働いたのではないだろうか。実際には、人々は眠りにつくことに対して不安をいだいていたにすぎなかったのだが、その不安と恐怖心が、入眠困難や中途覚醒という訴えとなって報告されてしまったのではないだろうか。実際に人々の眠りを調べてみると、一度眠りにつけぱ、朝まで眠り続ける方が普通だったのである。つまり、入眠後は、不安やストレスによって眠りがさまたげられることはなかったのだといえる。
そこで、人々が入眠前にいだく不安を取り除くためには、安心感のある就眠状況を作り出さねばならない。たとえば、空襲警報が直接聞こえないような場所でも、何らかの方法によって、かならず目が覚めるような環境を準備することが必要となってくる。
戦争勃発後3週目に入った時点で、友人でもある精神科医のエフード・クラインから電話があった。緊急の相談だという。話を聞くと、彼はラジオ・イスラエルのチーフ・エンジニアに連絡をとり、次のような提案をしたらしい。つまり、ラジオ局の放送を毎晩「無音状態」にしておき、空襲のときだけ、放送を行なってはどうかというのである。ラジオをこの放送局に合わせておけば、空襲の際、警報の代わりに放送が聞こえることになる。だが、なぜか局側の反応は冷たかった。そこでクラインは、睡眠研究の専門家である私が口をきけぱ、ラジオ局を説得できるのではないかと考えたのである。私はさっそくチーフ・エンジニアに電話をかけ、「クラインのアイデアを採用すれば、空襲に際しても、イスラエル国民はしっかりした態度で機敏に反応することができるはずだ」という内容の話をした。受話器の向こう側からはあいまいな返事しか返ってこなかったが、じつはこの話は、その時点ですでに局内に広まっていたのである。しかも、その日の夜、私はテレビ局から依頼を受け、番組の中で、クラインのアイデアについて説明した。この放送は予想どおりの効果をあげ、結局、その晩からラジオによる「無音放送」が始まったのである。
戦争中に行なったアンケート調査によると、イスラエル人の半数以上が、毎晩ラジオを「無音放送」に合わせてから眠りについたという。実際、この「放送」のおかげでよく眠れるようになったという反応が少なからず返ってきた。夜中に空襲があっても放送で目が覚めるはずだという安心感が一種の保証になって、人々はぐっすり眠れるようになったのである。
だが、状況性不眠は、いったん原因となる状況がなくなれば消えてしまうものだ。この症状が「一過性不眠」とも呼ばれるゆえんである。実際、戦争が終わってみると、ミサイルの脅威が醸し出した不安な雰囲気
もあっけなく消えてしまった。今日、大半のイろフエル人にとって湾岸戦争は遠い記憶でしかなく、戦争が心におよぼした影響や傷跡はすでに薄れてしまったといえる。
私は、「無音放送」のようなアイデアが、状況性不眠の他のケースにも応用できないかと考えている。身辺に重大な変化が起こり、そのことが頭から離れず、「睡眠に対する不安」を引き起こしている場合、やはり必要なのは、そのストレスを軽減し、安心させることであろう。重大なストレスのもとで不眠が生じるのは、人間として当然の反応であり、精神障害でも何でもないことを、よく理解させることが大切になってくるはずだ。
ただし、日常生活や仕事に差し障りが生じるような重度の不眠症の場合、後で紹介するような特別な治療法に頼ることとなる。
睡眠障害について広く実施されたアンケート調査によると、「ときどき睡眠障害に悩まされることがありますか?」という質問にイエスと答える人は、たいてい状況性不眠に悩む人であったという。とくに、睡眠障害が「ときおり」現れるとか、「頻繁に」生じるといった回答の場合、ほぼ確実に状況性不眠だと判断できる。また、世界的な統計を見ると、成人のおよそ15〜18パーセントが、「ときおり」、あるいはそれ以上の頻度で不眠に悩んでいるという。
おもしろいことに、ある種のアンケートによると、不眠に悩む率は男性よりも女性の方が高いという。この現象についてはさまざまな説明がなされているが、私にとって納得のいく仮説はまだない。一般的にいって、たしかに男女間には性格的な差異があるし、ストレスヘの反応のしかたも異なる。その観点からすると、女性の眠りの方がこわれやすいと説明することもできそうではある。一方、この男女差は社会的な産物と考えることもできる。たとえば、少なくとも昔の社会では、男性は一家の長として「強く」あらねばならない、と考えられてきた。つまり、病気をしてはならない、といった期待が人々の中にあった。その期待がアンケート調査に反映されているのではないか、というのである。もしこの「社会学的な」解釈が本当に正しいのだとすれば、旧来の性の役割分担が徐々に失われつつある今日、不眠に悩む率についても、男女差がなくなる方向に変わっていくかもしれない。

慢性的な不眠症

不眠は、ストレスの多い環境に対するごく自然な反応であり、精神障害ばかりが原因というわけではない。だが場合によっては、不眠が持続し、慢性化する危険もある。あるいは、不眠の原因が消え去っても、症状だけが残るケースも見受けられる。こうなると、もはや状況性不眠とはいえず、慢性不眠ということになる。慢性不眠への移行のしかたには個人差があり、その経過は一様ではない。たとえば、強いストレスなどによって引き起こされた不眠症状が、数日のうちに強い爪痕を残し、体から消えなくなってしまうことがある。この場合、「体が不眠状態を学習してしまった」、つまり「体が不眠状態に条件づけられてしまった」のである。入眠プロセスそのものが、さまざまな「学習」や「条件づけ」とかかわっていることを考えれば、体が不眠状態を学習するというのも、けっして不思議な現象ではない。
たとえば、カリフォルニア大学ロサンジェルス校のバリー・スターマンらは、非常にユニークな手法を用いて、入眠の条件づけ実験を行なっている。彼らはまず、ネコの視床下部の前部に電気刺激を与えると、たちまち眠ってしまうことを実験で証明した(すでに述べたとおり、視床下部前部は、フォン・エコノモが睡眠中枢として指摘した部位である)。そこで今度は、電気刺激を与える数秒前に、ネコに特定の音を聞かせることにした。この条件づけの手続きを何度も繰り返すと、音を聞かせただけで、すぐ明瞭な睡眠脳波が現れるようになった(実験では38回目にこの学習が成立した)。さらに条件づけ実験を続けると、音刺激を聞かされたネコは、すぐに体を横たえ、眠りこんでしまうようになった。
要するに、睡眠とまったく無関係であったはずの感覚刺激が、睡眠中枢への電気刺激と関連づけて何度も与えられると、やがて睡眠を誘発する刺激に変身してしまうのである。これは、人間にもよくあてはまる現象である。たとえば、歯をみがくといった「就眠儀式」をすませてからベツドに入って横になる。すると、その一連の行動が引き金となって、さっそく眠気が訪れる。すでに述べたように、夜、テレビを見ながら眠ってしまうという行動も、条件反射のIつと考えられる。疲れていようがいまいが、テレビの前に座ったとたん、ほとんど反射的にあくびをし、瞼が下がってくる人は多い。さて、不眠症は、人眠への条件づけではなく、不眠状態への条件づけという観点からとらえることができる。つまり、寝室という環境が不安心理の引き金(条件刺激)となり、入眠をさまたげ、寝つきを悪くするのである。不安をかかえたまま何とかベツドに入ったとしても、心は落ちつかない。眠りを連想させるさまざまな刺激が意識にのぼると、ますます落ちつかなくなる。スターマンらが条件づけ実験に使ったネコは、条件刺激となった音を聞くとたちまち眠ってしまうわけだが、不眠症の患者の場合、眠りについて考えただけで心拍数と血圧が上昇してしまう。歯をみがいてパジャマを着ると、不眠症患者の神経は異常に高ぶり、ついにベツドに入って毛布にくるまると、不安は頂点に連する。
しかも、不眠を「学習」してしまう不眠症患者は、悪循環に足を取られている。というのは、不眠がひどくなれば、条件づけもさらに確実なものになり、ますます治療がむずかしくなるからである。逆に、不眠を引き起こす刺激がなければ、不眠も起こらない。たとえば、不眠の原因となる「就眠前の刺激」が存在しないような場所、たとえば、自宅から遠く離れた場所に移動して、ふだんとは違うベツドに入れば、不眠症の彼らもあっさり眠ることができる。実際、睡眠検査を受けるときは、睡眠記録のために計測装置を装着していても、いつもの不眠を忘れてしまったかのように、すぐに眠りについてしまったりする。したがって、こうした患者の不眠症状は条件づけによるものだと考えることができる。
また、ベツドに入ってから、かならず誰かと電話で話すとか、明日の準備をととのえる、何か物を食べる、などといった習慣をもつ人がいる。これらはいずれも入眠のさまたげとなる。条件づけという観点から見て、こうした習慣の持ち主はやはり不眠におちいる危険がある。
状況性不眠を慢性化させる要因は条件づけだけではない。患者本人の性格や気質も、不眠を慢性化させることがある。
たとえば、ある種の人々は、自分の不眠をむしろ「手放したくない」ものととらえている。というのも、彼らにとって不眠は自分の「存在証明」であり、人間関係を維持する上で「便利な」ものなのである。つまり、睡眠や不眠にまつわるすべての事物が、彼らの世界の「中心軸」なのだ。無意識の中で、彼らの思考は不眠を中心に展開する。彼らのエネルギーもすべてその方向へ集中する。そして、不眠を一種の道具としてあつかい、まわりの人間を自分の思うままにあやつろうとするのである。そのために、家族の中につねに緊張と不安が存在する。たとえば、ある程度大きくなった子どもが、母や父の不眠について、「今夜こそ眠れるかな。昨日はどうだったんだろう。新しい薬の効き目はあったのかな」などと心配するような日々が続く。
こうして自分が不眠症患者でいるかぎり、家族の関心を集めることができる。不眠症状が消えてしまえば、自分への関心度も下がるにちがいない。そう考えて、不眠を「手放さない」患者がいるのである。マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」には、不眠にまつわる優雅な一節がある。不眠がこのようなかたちで描かれるのは、非常にまれなことである。ブルーストは、自分の叔母について次のように語る。
「私は一睡もしていない。それを忘れてはいけないわ」?叔母がつぶやくのが聞こえた。まったく眠らないということは、叔母にとって、誰もが認めるべき「事実」であった。家の中では、叔母の不眠にふさわしい言葉づかいが尊重された。朝、フランソワーズは叔母を「呼びに行く」のではなく、ただ叔母の「部屋に入る」。昼下がり、叔母が「昼寝」をしようというとき、私たちは「考えごとをしている」
とか「休んでいる」という言葉を使った。だがその叔母も、「目が覚めたとき……」とか「夢を見たのよ……」などとつい口走ってしまうことがあった。そういうとき、彼女は顔を赤らめ、すぐ言い直すのだった。(マルセル・プルースト「失われた時を求めて」第一篇「スワン家の方へ」より)
慢性的な不眠症患者は、自分の不眠症状を意識して、常日頃から強調しようとする。ときに症状を必要以上に強調してしまうのも、不眠にしがみつこうとする態度の現れといえよう。とくに、睡眠研究所で睡眠検査を行なった場合、この傾向が顕著になる。たとえば、実験室で一晩を過ごした不眠症患者に、次のような質問をするとする?「昨晩は眠れましたか?」「夜中に何回目が覚めましたか?」「寝つくまでにどれくらいの時間がかかりましたか?」。だが、自分の睡眠状態について正確に答えられる慢性不眠患者は、ほとんどいない。彼らの答えは、たいてい実態からはかけ離れている。たとえば、睡眠記録室の電気が消えてすぐ眠ってしまったにもかかわらず、翌朝になると、寝つくまでに何時間もかかったと訴える患者がいる。また、ほとんど一晩中ぐっすり眠っていたというのに、まったく眠れなかったと主張する患者もいる。私はこうした患者に何人も出会っている。
だが、睡眠状態と覚醒状態を本当に把握することができず、そのために自分の眠りを正確に評価できない患者もいる。こうした場合には、その原因をきちんと調べる必要がある。以前、私たちの研究所では、不眠症患者による眠りの自己評価を調査し、客観的なデータとのあいだになぜそれほど大きな誤差が生じるのかについて研究した。その結果、夜中に生じた数分ばかりの中途覚醒を長時間の覚醒と思いこんでいるケースが多いことがわかった。この勘違いが誤差の原因となっていたのである。たとえば、午前2時に5分間目ざめ、その一時間後にふたたぴ5分間目ざめたとする。すると患者はこの2回の中途覚醒を勝手につなぎ合わせ、少なくとも一時間は起きていたはずだ、と思いこんでしまうのである。そこで、実際の睡眠データを患者に示し、誤差の大きさとその原因を説明すると、場合によっては症状の改善につながることも多い。
また、状況性不眠が慢性化する原因として、睡眠薬の乱用もあげられる。次章でくわしく述べるが、睡眠薬によって不眠が完治することは少ない。たとえば、不眠に悩む患者が病院で睡眠薬を処方してもらうとする。もし医者の側に睡眠薬の効果について十分な知識がなければ、効き目を強くするために一回の指定服用量を増やす可能性がある。あるいは、患者が勝手に自分で服用する量を増やしてしまうこともある。だが、そのまま2〜3週間もすると、すでにかなりの服用量に達しているにもかかわらず、薬の効き目がなくなってしまう。こうして睡眠薬服用の悪循環が続くのである。すなわち、睡眠薬に対する「耐性」ができあがり、現状の服用量では眠れなくなる。そこで薬の量を増やす。また耐性が生じる、という悪循環である。こうした状態を何カ月か続ければ、大量の睡眠薬を服用しているにもかかわらず、不眠症は慢性化してしまう。
薬をやめようとすれば、今度は「退薬症状(禁断症状)」におちいる。具体的には、重度の睡眠障害や悪夢に苦しみ、昼間も不安に襲われ続ける。この退薬症状を克服できない患者は、ふたたび睡眠薬にすがることとなる。服用量はさらに増し、場合によっては、何種類かの睡眠薬を「カクテル」にして飲み続ける。私たちの研究所でも、こうした道をたどってきた不眠症患者を数多く診察している。毎晩数種類の睡眠薬を飲み続ける患者を診察したこともある。たとえば、睡眠検査に入る前に、私の目の前でハ種類(!)もの睡眠薬を服用した患者がいた。しかも、ハ種類ものカクテルを飲む患者は、私の診察経験だけで2人もいた。この2人は、それまで30年以上も不眠症に苦しんできたということであった。
あらゆる不眠症患者が、不安、ストレス、睡眠環境への不適応のせいで眠れずに苦しんでいるわけではない。そうした原因がないにもかかわらず、一生不眠に悩まされ続ける人もごくまれにいる。このタイプの不眠症は、「特発性不眠症」とか「本態性不眠症」などと呼ぱれている。これらの「特発性」「本態性」という言葉は、この疾患について原因も何もわかっていない、という意味で使われている。
特発性不眠症は非常に重い病気である。19世紀の著名な医学者であり、「サン・ミシェル物語」でも有名なスウェーデン人、アクセル・ムンテは、生涯不眠に苦しんでいたという。彼はパリのラ・サルペトリエール病院でジャンuマルタン・シャルコー〔19世紀フランスの神経病学者〕から催眠術を学び、診療に活用した。ムンテには催眠術の才能があったようだが、自身の不眠症には役に立たなかった。彼は著作の中で次のように述べている。「眠りが私から遠ざかり、不眠の時が訪れる。その苦しみときたら、気が狂いそうなほどだ。もちろん、不眠そのものが人を殺すことはない。ただ、不眠に苦しむ人間が自殺に追い込まれることはある。事実、不眠は自殺の原因の第一位を占めている。生きていたとしても、不眠は生きる喜びと生きる力を専い取る。吸血鬼さながら、頭と心臓から血を吸い取ってしまう。至福に満ちた眠りの中で人は日常の
憂さを忘れるものだが、不眠症に苦しむ者は、夜になると考えたくないことまで思い出す。そして昼のあいだは、覚えているべきことを思い出せなくなってしまうのである。(中略)ヴオルテールは眠りを希望と同列に置いた。けだし、炯眼であったといえよう」
こうしたタイプの不眠症状に悩む人々は、おそらく脳の睡眠中枢や覚醒中枢に何か異常が生じているのだと思われる。たとえば、覚醒中枢が異常に興奮していて、入眠をさまたげているのかもしれないし、逆に睡眠中枢の活動レベルが低いのかもしれない。私たちの臨床経験からいうと、こうした不眠症患者にはあまり薬物を投与しても効果はないし、ほかの治療法も望み薄である。
とはいえ、ムンテのように、不眠症と何とかつきあっている人は少なくない。以前、50歳代の男性と20歳代のその息子を診察した。この2人の事例は、印象深いケースとして今でもよく憶えている。彼らは長年不眠症に悩まされ続けており、家では午前4時に台所で顔を合わせるのが日課になっているのだといっていた。2人ともかなり若い頃から不眠が始まり、あらゆる治療を試みたが、結局効果はなかったという。

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