睡眠薬通販・販売|エスゾピクロン・バスパー・眠剤の個人輸入

睡眠薬の種類・強さ・副作用・分類とその特徴・効果・口コミ

睡眠

最高の睡眠を手に入れる7つの方法

投稿日:2017年4月29日 更新日:

最高の睡眠を手に入れる7つの方法

睡眠の借金が寿命を縮める

睡眠負債は脳にも体にもダメージを与える。 2002年にサンディエゴ大学のダニエル・F・クリプケ氏らが米国がん協会の協力を得て実施した100万人規模の調査では、アメリカ人の平均的な睡眠時間は7・5時間だった。 6年後、同じ100万人を追跡調査したところ、死亡率が、番低かったのは、平均値に近い7時間眠っている人たち。彼らを基準にすると、それより短時間睡眠の人も、逆に長時間睡眠の人も、『6年後の死亡率が1・3倍高い』という結果が出ている。「遺伝的に向かないのに、無理やり短時間睡眠をしている」「たっぷり寝るのはいいことだ!と、眠りすぎている」 もし、あなたが当てはまるなら、健康を害しているかもしれないので要注意だ。 睡眠と寿命について、こんな調査結果もある。薬物を使ってショウジョウバエの遺伝子に突然変異を起こし、その行動や睡眠を観察したところ、短時間睡眠のショウジョウバエは短命だったというものだ。 60日で生涯を閉じるショウジョウバエと違って、およそ80年に及ぶ人間の睡眠時間と寿命の関係を完全に調べるには、時間も費用も膨大にかかる。また、人間は肉体的にも環境の面でもハエよりはるかに複雑な要因で寿命が決まる。

エチラーム(デパスのジェネリック)など睡眠薬通販は、こちら→お薬館

よって同様のデータをとることは難しいか、全体の傾向としてはやはり『短時間睡眠の人は短命』といえそうだと私は考えている。

睡眠不足と肥満は比例する

睡眠不足と肥満は比例する

 

スタンフォード大学、名古屋大学、最近では上海の交通大学でも、死亡率や休眠増加に関して、サンディエゴ大学の調査と同じような研究結果か出ているのも偶然ではないだろう。 2002年に先のサンディエゴ大学の研究が発表されて以来、睡眠研究者だけではなく、内科医たちも睡眠の重要性を再認識して、さまざまな調査がおこなわれた。 すると、「睡眠制限をかけると大変なことが起きる」という報告が、次々と出てきた。眠らないと、『インスリン』の分泌が悪くなって血糖値が高くなり、糖尿病を招く。眠らないと、食べすぎを抑制する「レプチン」というホルモンが出ず、太る。眠らないと、食欲を増す「グレリン』というホルモンが出るため、太る。眠らないと、交感神経の緊張状態が続いて高血圧になる。眠らないと、精神が不安定になり、うつ病、不安障害、アルコール依存、薬物依存の発症率が高くなる。夜更けまで起きていて、やけにたくさん食べてしまった経験が、あなたにもあるだろう。それはホルモンの働きだが、短時間睡眠が肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病に直結するのは右を見れば明らかだ。SCNラボでの藤木通弘氏(現、産業医科人学)らの実験では、睡眠を制限したマウスはアルツハイマー型認知症にかかりやすいこともわかった。別の実験では、人についても『睡眠負債や睡眠の質の低下があると認知症にかかりやすくなる可能性がある』と報告されている。 国立精神・神経医療研究センターらのグループが報告した『1日・一時間以上の昼寝は認知症リスクを高める」というデータもある。加えて東京大学のグループは欧州糖尿病学会で『1日1時間以上の昼寝は糖尿病リスクも高める』と発表した。 眠らなくても眠りすぎてもよくないことかおわかりいただけるだろう。

かように睡眠負債はダメージが大きいが、逆をいえば、睡眠負債を返せばパフォーマンスは劇的に上がる。 スタンフォードの男子バスケットボール選手を被験者とした、デメント教授の興味深い研究がある。10人の選手に40日、毎晩10時間ベッドに入ってもらい、それが日中のパフォーマンスとどう関係するかを調査したものだ。 具体的には、コート内で何度も折り返しのある80メートル走のタイムとフリースローの成功率を毎日記録した。 最初の数日、パフォーマンスはそれほど劇的には変わらなかった。 学生とはいえ、スタンフォードのバスケットボール選手といえばセミプロレベル。もともと80メートルの反復走を16・2秒で走り、フリースローの成功率は10本中8本、3点スローなら15本中10本というずば抜けて高い能力の持ち主ばかりだから、大きな変化は難しいと思われた。ところが、2週間、3週間、4週間と経過するうちに、8メートルのタイムは0・7秒縮まり、フリースローは0・9本、3点スローは1・4本も多く入るようになった。選手白身、「すごく調子がいい」「ゲーム運びが良くなった」という実感も得ていた。いったい、何か起きていたのだろう? 選手たちは、夜この実験に参加し、昼は過酷な練習を続けていた。つまり、睡眠と関係なく、日々のトレーニングによって上達した可能性もある。 だが、そもそも激しいトレーニングをしていた一流選手ばかりだ。練習方法が変わっていないのに、ある日突然、全員そろって上達するとは考えにくい。選手たちには、前述した夜勤明けの医師の実験と同じ、タブレットの画面に丸い図形が出るたびにボタンを押す実験もしてもらった。すると、10時間ベッドに入り続けるうちに、リアクションタイムも良くなって

そして40目に及ぶ実験が終了し、10時間睡眠をやめたところ、選手たちの記録は、実験開始前に戻ってしまったのだ。
つまり、選手たちの集中力と思考力が高まり、エラーが減った理由は、睡眠にあった。睡眠によって、パフォーマンスが上がったのだ。

「たっぷりの睡眠」でも脳は不満足

睡眠負債による心身へのダメージと恐ろしさ。
睡眠負債を解消したときのパフォーマンスのすばらしさ。
この2点については、かなりお伝えできたと思う。
だが私は、『なのでしっかり寝てください』という話で終わらせるつもりはない。
実際問題として、「毎日7時間眠る」のが難しいから、あなたはこの本を手に取っているはずだ。仕事や生活と折り合いをつけつつ、睡眠負債をどう解消していくか、そこに論点を移そう。
手っ取り早い解決策として、「日ごろの寝不足を、上目の寝だめで解消しているから大丈夫」と言う人もいる。しかし実際のところ、ほとんど解消されていない。
睡眠をお金として考えてほしいと述べたが、お金の負債は返せても、睡眠負債はなかなか返せないのだ。
これについてもエビデンスがある。

「どれだけ眠れば寝不足は解消できるのか」を知るために、健康な10人を14時間、無理やりベッドに入れた調査がある。実験前の10人の平均的な睡眠時間は7・5時間。彼らに一日中、好きなだけ寝てもらう。 1日目はみな13時間、2日目もみな13時間近く眠っていた。ところがその後は多く眠ることは無理で、徐々に睡眠時間が短くなり、逆に5時間も6時間もずっとベッドの上で起きているという状態になった。 結局、3週間後に睡眠時間は平均8・2時間に固定。これがこの10人の生理的に必要な睡眠時間だと考えられる。 だか、この実験のポイントは「理想の睡眠時間」を知ることではない。 8・2時間が理想の睡眠時間だとすれば、平均睡眠時間が7.5時間の彼らは長い間、「毎日40分の睡眠負債」を抱えていたということになる。それが正常な8・2時間に回復するまでに3週間もかかったーつまり、40分の睡眠負債を返すには、毎日14時間ベッドにいるのを3週間続けなければいけないのだ。これは、あまりに非現実的である。 日ごろの睡眠不足を1日2日で解消しようというのは、現実的に無理なのだ。

14時間連続でベッドに入るとどうなる?

14時間連続でベッドに入るとどうなる?

 

先ほど紹介したバスケットボール選手の実験からも、同じことが考えられる。 彼らは選手だから、練習と試合に相当な時間を費やしている。同時に大学生だから勉強もあるし、ときには仲間と騒いだり、デートをしたりするだろう。やりたいことが多くても1日は24時間だから、睡眠負債はあって当然だ。 なぜ、3週間、4週間たってからパフォーマンスが上がったのかといえば、実験前の睡眠負債を返すのに、それだけの時間がかかったからにほかならない。 週末の寝だめごときで、睡眠負債は解決しない。「好きなだけ寝ろ」と言われたところで眠れないし、そもそも眠りはためられない。つまるところ、睡眠の問題を『時間』でコントロールするのは難しい、となる。 たった40分の睡眠負債を返すのに3週間、毎日14時間もベッドにいるのは現実的ではない。また、珍しい遺伝子の持ち主でない限り、短時間睡眠には耐えられない。 そこで、いかに睡眠の質を高めるかが唄要になってくるのである。「黄金の90分」で最高の脳と体をつくり上げる睡眠(寝ている時間)と覚醒(起きている時間)は2つで1つ。 私はそう考えている。良い睡眠がなければ良い覚醒はなく、良い覚醒によって良い睡眠も得られるのだ。 スタンフォードをはじめとする研究者たちや、日本やアメリカの経営者を見ても、成果を出している人は、眠りについて意識が高い。すでに「睡眠メンテナンス」を始めているのだ。

食事に注意し、体を鍛えてメンテナンスするのはもはやビジネスパーソンの常識だ。世界のエグゼクティブやアスリートは、それと同様に、睡眠を大岡にしている。むしろ睡眠という基礎があってこそ、食事やエクササイズの効果が上がるのだ。彼らは最先端の情報を得るスピードか遠く、いいと思えば誰よりも早く取り入れる。マーケティング用語でいえば、私たち専門家は最新の知識を生み出すイノベーター、出世する人はアーリーアダプター(初期採用者)というところだろう。睡眠医学の研究か進み、最新の情報を得た人たちは、眠りによって覚醒時の脳と体の働きが決まることを、いち早く理解しているのだ。一般に、アーリーアダプターは全体の13・5%。アーリーアダプターに続く人たちはアーリーマジョリティ(前期追随者)で、全体の34%を占めている。あなたには、ここをまず目指してほしい。 少し前までは、「眠り=休息」という古い解釈がまかり通っていたため、今でも「休まなくても平気だ!」で押し通すタイプの人もいる。おそらく、どれほど眠りが大切だといっても耳を傾けないだろう。 ひたすら現状維持にこだわるラガード(全体の14%)とは、直訳すれば「グズな人」だが、彼らは時代の変化に興味がなく、新しいものには疑いと否定の目を向け、非常に保守的だ。こういう人たちも一定数いるのが社会である。 少なくともあなたは、その一員ではないだろう。

最初の90分の睡眠を深くせよ

優秀な人は当然ながら多忙だ。睡眠時間をしっかり確保するのは難しい。そこで私が提案するのは、「睡眠の質を最大限に高める」ことを突き詰めたメソッドである。人は眠りに落ちてから目覚めるまで、ずっと同じように眠っているわけではない。眠りにはレム睡眠(脳は起きていて体が眠っている睡眠)とノンレム睡眠{脳も体も眠っている睡眠)の2種類があり、それを繰り返しながら眠っている。

寝ついたあと、すぐに訪れるのはノンレム睡眠。 とりわけ最初の90分間のノンレム睡眠は、睡眠全体のなかでもっとも深い眠りである。この段階の人を起こすのは非常に難しく、無理に起こすと頭がすっきりしない。 脳波を測定すると、非活動状態であることを示す「大きくて、徐行運転のようなゆっくりとした波形」が出現するので『徐波睡眠』とも呼ばれている。 そして、人眠後およそ90分後に訪れるのが最初のレム睡眠。まぷたの下で眼球が素早く動く「急速眼球運動」が見られ、このタイミングで(割と現実的な)夢を見たりする。レム睡眠中は意識はないが、比較的簡単に起こすことができる。ちなみに、レムとは「急速眼球運動(Rapid Eye Movement)」の略だ。この「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」が明け方くらいまでに4、5回繰り返し現れ、明け方になるとレム睡眠の出現時間が長くなるのが通常の睡眠パターンだ。この浅くて長い明け方のレム睡眠時に目覚めるのか、自然な流れである。 ノンレム睡眠は大服直後がもっとも深いが、逆に明け方に近づくにつれ、眠りは浅くなり持続時間も短くなる。 睡眠メンテナンスで意識したいのか、『最初のノンレム睡眠』をいかに深くするかということ。 ここで深く脹れれば、その後の睡眠リズムも整うし、自律神経やホルモンの働きも良くなり、翌日のパフォーマンスも上がる。つまり、入眠直後のもっとも深い眠りの90分か、最高の睡眠の鍵を握っているのだ。「最初の90分か眠りのゴールデンタイム」といわれているか、まさに黄金だ。たとえば、グロースホルモン(成長ホルモン)がもっとも多く分泌されるのも、最初のノンレム睡眠が訪れたとき。この一番深いノンレム睡眠の質が悪かったり、外部から阻害されたりすると、グロースホルモンは正常に分泌されない。グロースホルモンは、その名のとおり子どもの成長に関与するだけではない。大人の細胞の増殖や正常な代謝を促進させる働きがある。「アンチエイジングに効果がある」などともよくいわれている。また、長く起きていると『眠りたい』という睡眠欲求(「睡眠圧』)が高まってくるが、最初のノンレム睡眠でその睡眠圧の多くが解放されることもわかっている。 黄金の90分の質を高めれば、すっきりした朝を迎えられる。昼間の眠気も消える。 さらに、「しっかり寝たはずなのに、疲れがとれない」こともなくなる。 詳しくは2章で述べるが、仮に4時間しか脹れなくても最初の90分の質が良ければ、その4時間の質を最大限に高めることかできるだろう。逆にいうと、『寝る時間がない』なら、絶対に90分の質を下げてはならない。眠りはもちろん、翌日のパフォーマンスまで、シルバーやブロンズどころか鉄くずになるだろう。「睡眠の役割」を知るために、ノンレム睡眠の断眠実験をおこなうことがあるが、最初の90分を阻害すると、その後の睡眠は計測不能となるほど乱れてしまい、実験が継続できなくなるので、2周期目から断眠をすることも多い(なので、寝たばかりの人を起こすのはおすすめしない)。それほど、この90分は睡眠に欠かせない、最大基礎なのである。

 

ひとつ断っておきたいのは、ショートスリーパー以外の普通の人は、最低でも6時間以上脹るのがベストだということだ。「時間にはとらわれないでほしい」といったが、この「6時間」は確保していただけると、睡眠学者としてもうれしい。 とはいえベストの眠りが難しいあなたに、ベターを提供するのが本書の目的である。「Better than notning」とは「やらないよりマシ」というごい回しだが、マシどころの話ではない。本書で提案する『睡眠のベター』によって、人生の質すら変わってくると私は確信している。 そして、そのベターを支えるのが、黄金の90分を手に入れるために欠かせない2つのスイッチ、「体温」と「脳」だ。これについては3章で詳述する。よく寝るだけでは、パフォーマンスは上がらない。逆にいうと、理想どおりに睡眠時間を増やすことは不可能でも、眠り方を変えることで睡眠の質が高まり、覚醒時のコンディションが整うばかりか、パワーも増大するということだ。 それでは「質の良い睡眠」は、具体的に覚醒時の私たちにどんな影響を及ぼしているのだろう。睡眠には、はたしてどんな力が眠っているのだろうか。』れから「睡眠に秘められた力」を解き明かしながら、謎めいた「眠りの実態」に迫る旅へと歩みを進めていこう。

世界のエグゼクティブが大事にする「眠りの共通点」

ソチ五輪に出場した日本人アスリート100人の寝具の好みについて、解析したことがある。調査を実施し、私に解析を依頼してきたのは寝具メーカーのエアウィーヴ社。同社はアスリートに愛用される高反発マットレスで知られている。すると、競技ごとに選手が好むマットレスは明らかに違うことがわかった。たとえば、ボブスレー選手は硬いものを好み、フィギュアスケート選手は比較的柔らかいものを好む。これはアスリート以外にも当てはまるようで、体重が重く、がっちりした体型の人ほど硬めを選ぶ傾向にあるようだ。

 

大柄で硬い筋肉をもつボブスレー選手と、細身でしなやかな筋肉をもつフィギュアスケート選手は、パフォーマンスはまったく違うだけに、「眠りの好み」が異なっていたのだ。さらに興味深かったのが、エントリーしている代表選手と控えの選手の比較である。控え選手に比べると、代表選手のほうが眠りへのこだわりが明らかに強いことがわかった。トップアスリートほど、寝具、明るさ、室温など、『睡眠時の環境』について、はっきりした自分の好みをもっていたのだ。 試合で最高のパフォーマンスをし、貪欲に記録を仲ばすには、起きているときのトレーニングや食事だけでは「足りない」ことを彼らは知っている。それゆえ、眠りに対してもセンシティブで、常にベストを摸索するのだろう。 勝負への執念ともいえるトップアスリートのこだわりを目の当たりにし、私は、これはビジネスパーソンにも当てはまるのではないかと感じていた。
私は睡眠の専門家としてプロのテニスプレイヤーやメジャーリーガー、力士などにアドバイスをしたり、
世界のエグゼクティブたちに、眠りについて話すことかある。
職業、人種、年齢、キャラクターはまちまちだが、いわゆる「超一流」の人たちを見ていると、共通点が
あることに気づく。
①超一流の人は、自分の専門分野で成果をあげる。
②超一流の人は、専門分野の枠を超えても、見識が深い。
③超一流の人は、物事をうまく運ぶコツやツポを押さえている(成功への普遍性を備えている)。
④超一流の人は、卓越した行動力がある。
⑤超一流の人は、正しい情報収集と理解力を武器にする。

超一流の人は、努力と成功のプロセスを通じて人格も磨かれているので、「先生のアドバイスのおかげて睡眠が改善しました」などとうれしいことを言ってくださるが、実は違う。 アドバイスを受けただけでは、人は変わらない。キーポイントは、⑤であげた『正しい情報収集と理解力」にある。超一流の人のまわりにはたくさん人か集まるから、あらゆる話を聞くだろう。だが、彼らは決して大量の情報に振り回されない。ジャンクだらけのデータの海の中から本当に必要なものを取捨選択するという「正しい情報収集力」がある。だからこそ、超一流の人は成功までの最短ルートを見極め、短いスパンで結果を残すのだと思う。「睡眠ジャンク」から抜け出すためにも、まずは選び抜いた「睡眠エッセンス」をあなたにしっかりお伝えしていきたい。知識は深刻な睡眠障害にも役に立つ。 日本でもアメリカでも、慢性的に不眠の症状を抱えている人はおよそ20〜30%いるとされるが、「不眠症の治療には睡眠薬」というのが一般的だ。今は副作用も少ない良い薬が出ているが、問題は常用性と依存性。「服用量がしだいに増え、薬をやめると眠れない」となる点だ。 それでいて不眠症は「プラセボ(偽薬)効果」が高い。つまり、ただの小麦粉でできた錠剤でも、「これはかなり強い睡眠導入剤です」と医師が処方すれば、患者はあっさり眠れたりする。要は、睡眠はそれだけ脳とかかわりが深いということだ。そこで、薬を使わずに不眠症を治そうと始まったのが『認知行動療法』と呼ばれる手法である。

①正しい知識を得て理解を深める(認知)。
②翌日の活動の質・パフォーマンスを上げるための行動づけをする(行動)。

たとえば「仕事のプレッシャーで眠れない。酒でも飲んで寝よう」という考えのもと、寝しなに大屋のアルコールをとる人がいたとする。これは間違った認知と行動の代表だ。 大量のアルコールは眠りを浅くし、睡眠の質を確実に落とす。アルコールの利尿作用と飲酒による水分摂取でトイレに行きたくなり、目が覚めてしまうことも。 睡眠の量が確保できない人は、絶対にやってはいけない眠り方だ。 そこで、「仕事のプレッシャーで眠れない。だからよく眠るための2つのスイッチを入れよう」という、これから本書で取り上げる正しい知識を理解したうえで、正しい行動をする。その行動が習慣になれば、ストレスによる不眠は解消する。これか「眠りの認知行動療法」だ。 認知行動療法の長所は、薬と違って依存性も副作用もなく、やめてもリバウンドがないことだ。さらに、お金もかからない。 睡眠の臨床医たちは、『まず患者に睡眠生理の説明をしてから、認知行動療法に移ると効果が上がる』と述べている。 だからこそ、この章でお伝えする睡眠の基礎知識を理解し、間違ったジャンク情報を捨てたうえで、「眠りのためになる」行動へと移っていただきたい。 15分あれば読了できるように、重要な点だけに絞ってダイジェストでお伝えしていくが、すでにご存じなら、さっと斜め読みして確認するだけでもかまわない。

睡眠に課せられた「5つのミッション」

ぐっすり眠った翌朝、あなたの脳と体はどんなコンディションだろう?頭が冴えているからアイデアも生まれやすい。集中力が途切れないので、思考の精度が上がる。コンディションが整い体調も良いので、粘り強く仕事に取り組める。では、「ぐっすり眠る」とは何だろう?その答えは、やはり真夜中、とくに眠り始めの90分にある。 真夜中に睡眠がきっちりと役割を果たしていれば、翌日のパフォーマンスは確実に上がる。長期的にも脳と体、そして心の健康につながるだろう。 眠っている間、脳と体で何か起きているかを知れば、「ぐっすり眠る=質の良い睡眠」とはどういうことかがみえてくる。 睡眠が遂行するミッションは、おもに次の5つだ。睡眠の役割で欠かせないのが休息だ。「睡眠=休息」ではないが、大きな役割であることは確かだ。「I00%電源オフ」にはならないが、睡眠中の脳と体はまさしく「スリープモード」になっている。 人間の体では、意思とは関係なく自律神経が常に働いている。体温を維持し、心臓を動かし、呼吸し、消化し、ホルモンや代謝を調整するのが自律神経だ。 よく知られているとおり、自律神経には活動モードの『交感神経』と、リラックスモードの『副交感神経』がある。この2つは24時間働いているが、代わる代わる、どちらかが30%ほど優位になる。

は交感神経が優位だ。体内では血糖値と血圧、脈拍が上がり、筋肉と心臓の動きが活発になる。脳は緊張感と集中力を増す。 緊張時や集中しているときには、神経細胞が活発化するので、現れるのは弔い波形の脳波。逆にリラックスすれば、ゆっくりで乱れの落ち着いた脳波か現れ、ストレスを取り除く「α波」などが出現する。 ノンレム睡眠中と食後は、副交感神経が優位だ。心臓の働きや呼吸かゆるやかになる。食後は胃腸の働きが活発になり、消化と排泄が促される。 どちらも大切なのだが、ビジネスパーソンの悩みは、交感神経優位の状態が多すぎる点だろう。常に活動モードを続ければ、体と脳は疲労し、ストレスかたまる。 夜になったらスムーズに副交感神経優位の状態に交代しないと、寝つきが悪くなり、眠りが浅くなる。やがて自律神経のバランスが崩れると、体温や腸管の働きなど、根本的な体の機能もすべておかしくなることに。 眠り始めのもっとも深いノンレム睡眠が出現する黄金の90分で、しっかりと副交感神経優位に転換し、脳と体を休ませることが、最高の睡眠の第一ミッションである。記憶に関してはさまざまなグループが独自のデータをもとに意見を述べているので、知識が完全に続合されているわけではない。だか、学習後に睡眠をとることで記憶の定着が進むという知見は多い。 睡眠と記憶については、複数の学者の報告から、次のような概念か提唱されている。・レム睡眠中、エピソード記憶(いつどこで何をしたか)が固定される。・黄金の90分で訪れる深いノンレム睡眠は、イヤな記憶を消去する。・入眠初期や明け方の浅いノンレム睡眠では、体で覚える記憶(意識せずに覚えられる記憶)が固定される。つまり、ノンレム睡眠、レム睡眠を数セット繰り返し、時間がたつとともに浅い睡眠に移行する中で、記憶が整理され、定着していくのだ。記憶というとインプットばかりに意識がいくが、イヤなことや不要なことは忘れることも大切だ。また、最近では、入眠直後のもっとも深いノンレム睡眠のときに、海馬から大脳皮質に情報が移勤し、記憶が保存されるという報告もある。 このことからも、記憶にとって睡眠が欠かせないことがわかる。新生児はレム睡眠が9割ほどだが、脳の発達段階でレム睡眠が減少し、13歳くらいで人人と同程度にノンレム睡眠が増える。ここから『レム睡眠は脳の発達に関係する』という仮説も生まれ、研究されているが未知の部分も多い。この部分は私の「生涯の研究テーマ」のひとつなので、必ずや突き止めたいと思っている。「睡眠学習は効果がある」という説は、睡眠時の脳が記憶を処理していることから出てきたのだろうが、これは私が知る限り、何のエビデンスもないジャンク情報だ。脳はホルモンのバランスも制御しており睡眠時には多くのホルモンが働いている。ホルモンは生活習慣病とも密接にかかわりがあるので、「良き友」としてつきあいたいところだ。 良い眠りは、生活習慣病の改善にもつながることは研究でわかっている。 たとえば睡眠を制限すると、脂肪細胞から分泌される「食欲を抑制するレプチン」が減少し、胃から分泌される「食欲を増すグレリン」が増えることは先ほど書いた。そのほか、細胞を生まれ変わらせ、身体機能を活発化させる「アミノ酸」などにも変化が生じる。このように、睡眠とホルモンバランスは密接な関係にあるのだ。 とりわけグロースホルモン(成長ホルモン)は、黄金の90分にもっとも多く出る。大人の場合、このホルモンのおかげで筋肉や骨は強くなり、代謝が正常化される。

グロースホルモンと構造が近い、生殖や母性行動に関与するプロラクチンも最初のノンレム睡眠で多く分泌される。 皮膚の保水量は睡眠で上がるのだが、これは肌の水分が、睡眠と密接につながっている「性ホルモン」や「グロースホルモン」の影響を受けるからである。

睡眠で免疫力を上げる

免疫はホルモンと連動しており、睡眠との関係も深い。 睡眠が不適切になると、ホルモンバランスが崩れ、免疫の働きもおかしくなる。風邪やインフルエンザ、がんなどの免疫に関係する病気になる可能性が高まるのだ。睡眠には休息という役割も大きいので、『風邪は寝て治す』というのは免疫力向上と休息の面で理にかなっている。実際、インフルエンザの予防接種でワクチンを取り入れても、睡眠が乱れていると免疫が確立せず、ワクチン接種の効果が認められないという報告もあるほどだ。 また、リウマチなどの自己免疫疾患やアレルギーは、天候などさまざまなものがトリガーとなるが、免疫機構とも大きくかかわっている。つまり、睡眠時の免疫増強がきちんと働いていないと、アレルギーが悪化する危険もあるのだ。脳は直接、頭蓋骨に収まっているわけではない。「脳脊髄液」という保護液につかっているので、転んで頭を打っても、脳が骨に直接ぶつかって傷つかずにすむのだ。 小さな「脳のプール」ともいえる脳脊髄液はおよそ150回1日4回、600ccほど入れ替わっている。新しい脳脊髄液が出て、古いものが排出されるとき、脳の老廃物も一緒に除去されるというエビデンスがある。

脳の老廃物自体は、神経細胞が活発である覚醒時にたまる。日中の覚醒時にも『たまった老廃物除去』はおこなわれているのだが、それだけでは追いつかない。なので、就寝時にまとまったメンテナンスが、脳からしても必要なのだ。脳の老廃物がきちんと排出されないと、アルツハイマーなどの疾患の引き金となる可能性もある。私たちのラボで実験したところ、アルツハイマーになりやすい遺伝子をもったマウスの睡眠を制限すると、アルツハイマーの原因物質のひとつ『アミロイドβ』がたまりやすくなることがわかった。これは、眠っていれば正常に分解・排出され、蓄積しないはずの脳の老廃物だ。これらのマウスに睡眠剤を与えて無理にでも眠らせると、アミロイドβの沈着率も下がった。私たちはこの研究を『叩芯コa』に発表しているが、人間でも「睡眠障害とアルツハイマーのリスク」に関して類似したデータが出てきている。 もちろん、これは「睡眠制限はもともとアルツハイマーになりやすい人の認知症発症率を促進する」という話で、睡眠負債は認知症の直接原因ではなく、あくまで危険因子である。 だが、脳の老廃物の排泄がうまくいかないと、アルツハイマーに限らず、長期的に脳のダメージにつながることは確かだ。睡眠の役割は以上の5つだが、殼初にあげた休息の役割はやはり大きい。疲労を回復してこそパフォーマンスは上がるのだ。 私たちは放っておくと、自分の脳も体も使いすぎてしまう。ヒトが明かりと出合ってから「夜は暗くて何もできない時間」という生物としての大前提が崩れ、20世紀の終わりには当然のように「24時間オンタイム」が可能になってしまった。 だからこそ、意識的に休むことか必要だし、睡眠という休み時間を「フル活用」する工夫があってもいい。

たとえば私はコンピュータの影響で、よく目の疲れを感じる。もともと視力が低いこともあり、グラフィックな作業をしたあとなどは、ドライアイの見本のような状態だ。同じ悩みを抱えるビジネスパーソンも、少なからずいるだろう。そこでしばしば疲れ日用の点眼薬を使うが、夜寝る前にさすと、そのあと瞼を閉じたままになり、目を使わない休息期に回復させることになるので、より効果があると感じる。眼科は払の専門外だし、こうした目薬の類いは対症療法で、一時は良くなるが抜本的な治療とはならない。だか、対症療法だからこそ、休息とセットにすることでより効果を強めるという上火をしてもいいだろう。「風邪薬を飲んだらぐっすり寝なさい」という母親の言葉は、やはり正しいのである。

睡眠の終着駅「夢」の不思議

睡眠の5つのミッション以外にも眠りを語るうえで欠かせないのが「夢」の話だ。なぜ、私たちは夢を見るのだろう?そもそも、「夢」とはいったいどんな現象で、どんな役割かあるのだろう?不思議あまねく夢の世界に、少し寄り道していこう。「夢を見るのはレム睡眠のとき」という知識かおる人も多いだろう、たしかにレム睡眠のとき、私たちは夢を見る。だが、ノンレム睡眠中もかなり夢を見ていることが、実験でわかっている。夜、私たちは常に夢の世界にいるのだ。1950年代のレム睡眠の発見直後、レム睡眠中に夢を見ていることが明らかになったが、1957年、「ノンレム睡眠中でも人は夢を見る」こともデメント教授が報告し、その後複数の研究者により確認された。 起きたとき覚えている夢は、通常目が覚める直前に見ていた夢である。普通、浅いレム睡眠を繰り返しながら人は目覚めるため、「レム睡眠=夢を見る」となっていた。 ところが、深いノンレム睡眠中に起こしてみたところ、その際も夢を見ていたことがわかったのだ。夢の内容を記述してもらったところ、レム睡眠はストーリーがあって実体験に近い夢、ノンレム睡眠は抽象的で辻棲が合わない夢が多いことがわかった。「体は寝ていて脳は起きている」レム睡眠中は、覚醒時のように大脳皮質が活性化していて、見ている夢に関運して大脳の運動野の手足を司る神経細胞が活性化している。 つまり、脳の中では「体を使って、さも現実かのように夢の世界を体験している」ので、具体的かつ合理的なのだ。 動物も夢を見るというのは、イヌやネコを飼っている人ならわかるだろう。私は何ト日も睡眠中のイヌの脳波を記録したことがあるが、眠っているイヌが楽しそうに尻尾をふることがよくある。そのとき、イヌはまさに「レム睡眠の真っ最中」なのだ。 ノンレム睡眠中は「脳も寝ている」ので、夢を見ても大脳の運動野は活性化しない。深い睡眠中に急に起こされると、いわゆる「寝ぽけた」状態になってしばらく思考が混乱し、場所や時間の整合性がつかないようなときがあるが、「ノンレム睡眠中に見る夢」もまさにこの状態に近い。 以上のことから、起きた直後、「抽象的でよくわからない」夢を記憶している場合、ノンレム睡眠中に目見めたと考えられる。これは、「人はレム睡眠のとき、自然に目が覚める」パターンから外れているので、眠りか乱れている可能性も捨てきれない。また、『レム睡眠』と『ノンレム睡眠』が入れ替わるごとに、夢も切り替わっていることもわかっている。』れを踏まえると、夢は見た回数が多いほど、レム睡眠とノンレム睡眠のスリーブサイクルをしっかり回せていることになる。 つまり、正常なリズムどおりの睡眠がとれていれば、人は7、8回ほど、別々の夢の世界を旅しているのだ(何とも残念なことに、しっかり眠れば眠るほど、最後の夢以外は忘れてしまっているのだが・・)。 ちなみに、なぜ「明け方の夢」は覚えているのだろう。明け方見る夢それ自体に、何か意味はあるのだろうか? おそらく、『覚醒直前のレム睡眠時に見る夢』には『起きる準備』という役割があると考えられる。 これは「なぜ夢を見るのか?」ということにもつながると思うが、寝ぼけを回避するために、定期的にレム睡眠で大脳を活性化させて交感神経を優位にし、「目覚め」とそこから続く「覚醒活動」の準備を担っているためと思われる。こう考えると、明け方に近づくほど「合理的な夢を見る」レム睡眠が長くなるのも理にかなっている。 では、「見たい夢」は見られるのだろうか?「夢を見る」とされたレム睡眠に関する重大な発見(レム睡眠にかかわる神経機構やメカニズム、どこにその神経はあるのかなど)は、レム睡眠自体の発見から10年以内に見つかったものが多い。しかし、まだ解明されていないことが多いのも事実だ。「好きな夢が見られるのか」についても、レム睡眠発見直後に盛んに検証された。 具体的には次のような調査がおこなわれている。・『見たい』と思った夢を事前にあげ、実際にその夢を見た確率を求める。・寝ている人の耳に息を吹きかけたり、冷水を顔にたらしたりして『音や温熱、皮膚感覚』の刺激をおこな い、夢内容が変化するか、もしくは刺激が夢内容に取り込まれないかを調べる。 で、結論はというと……『見たい夢を見るのは不可能」。事前の宣言と夢内容が一致したり、夢が刺激によって変化したりすることは、偶然に起こる以上の頻度で生じることはなかった。 なかには、大学の教室で、100人もの学生が少し離れた場所で眠っている特定の一人の学生に、夢の内容をいっせいに話しかけてその内容の夢を見させることはできるのかなどの実験も、真剣になされた。 今では一笑に付されるかもしれないが、当時は学生も教官も必死だった。「夢を見る睡眠」の発見が、それほどまでに衝撃だったのだ。

眠りの質が「覚醒レベル」をこう決める

そんな夢の世界から目見めたときあなたはどれくらい自分の眠りに満足しているだろう?「ちっとも眠れません。私は不眠症だと思います」 こう訴えて睡眠クリニックにやってくるたくさんの人を診察し、検査をしたら、実は寝ていたというケースはアメリカでも日本でも多い。 医師たちは「ミスパーセプション(誤認)」で片づけてしまうが、本人は、「不眠=量の問題」と思っていたら、「寝ているのに疲れがとれない=質の問題」だった、ということもある。さらに、何らかの未知の病変がある可能性も否定できない。 何か原因にしても、患者か困っているのだから、良い睡眠でないことは確かだ。「自分の睡眠に満足している」と言う人は少数派だ。「寝つきが悪い」「睡眠不足だ」「寝ているのに疲れがとれない」と言う人は、感覚的ではあるか70%以上。逆に「満足している」と言う人は30%にも満たない。

しかし、こと睡眠においては、この「不満足」が普通となってしまっている印象を受ける。えてして「不幸なこと」だとはあまり認識されていないようだ。 この「不満足感」を解消すれば、脳と体のコンディションが上向き、「注意散漫」や「体調不良」といったネガティブな問題が限りなくゼロに近づくにもかかわらず。では、どうすれば自分の睡眠が満足いくものかどうか、厳密にわかるのだろう?の 睡眠の良し悪しを科学的に測定するために、専門家は『睡眠ポリグラフ』と呼ばれる装置を用いて脳波、筋電図、眼球運動、心電図などを同時記録する。複数の生体シグナルを同時測定するのが、「ポリグラフ」である。 睡眠ポリグラフは、睡眠の深さと量を測定するために、1950年代に考案された。現在に至るまで進化を続け、多角的に各部の動きを計測してくれる。 たとえばレム睡眠時には筋肉が脱力するので筋電図を測る。それに、急速眼球運動も出現するので眼球の計測もおこなう。また、「睡眠時無呼吸症候群」は頻度も多く重篤な睡眠障害なので、呼吸と動脈の酸素も同時に測る。 同時測定したこれらのデータをもとに、あなたの睡眠を「30秒ごとに、眠りのステージを各4段階で判定する」のが「睡眠ポリグラフ検査」だ。 健康な人の睡眠パターンはある程度決まっているので、睡眠の深さや移行パターンが通常どおりであれば、良質の睡眠だといっていい。とはいえ、睡眠の量と質を正確に測定できる施設は限られており、加えて非常に手間と時間がかかる。患者の拘束期間は長く、そして医療機関の労力も大きい。当然、検査費用も高くなる。 もっと困るのは、検査室の睡眠環境だ。データ計測のためとはいえ、体中にコードを張り巡らされればよけいに眠りづらく、普段の睡眠状態は反映されにくいといわざるをえない。 検査しにくいからこそ、科学的診断の前に、自覚症状という一番精度の良い検査方法をフル活用してほしい。睡眠は誰とも共有できない個人的な体験だ。 また、眠りの前後だけでなく翌日のパフォーマンスについても「自分の感覚」を点検すると、質の良い眠りがとれているかどうかか見えてくる。 睡眠とあなたは切っても切れない関係にある。「眠い」「もっと寝たい」という感情は睡眠からあなたに発せられた「救難信号」なのだ。 逆に、日中コンディションが良く集中力が続いているなら、睡眠がしっかり仕事を果たせていることの「夜の世界からの内なる報告」だと受け止めよう。眠りに悩む多くの人は本吉のアドバイスで大部分か改善する。 だが、睡眠には未知の部分がまだたくさんあり、思わぬ病気が隠れていることもあるのでご注意いただきたい。 不満足な眠りによって「集中力の著しい低下」など、日常生活に明らかなトラブルが起きている人は、睡眠障害の疑いもある。ぜひ、一度診察を受けてほしい。

致死率40%なのに身近な睡眠障害

なかでも睡眠時無呼吸症候群は、頻度も高く危険な睡眠障害だ。 欧米人の場合、肥満している人に起こりやすいという特微かある。脂肪が気道を狭めて圧迫するのが大きな要因だ。ところが、日本人の場合、痩せていても睡眠時無呼吸症候群になる。アジア人は顔が平たく、下あごが奥まり、気道がもともと狭いからだ。 この病気の危険信号は「いびき」。「大きないびきをかき、よく息が止まっている」という指摘を家族に受けたことがあるなら、睡眠時無呼吸症候群の恐れがある。 もちろん、いびきだけで呼吸が止まっていないこともあるし、健康な人でも、睡眠中にときどき呼吸が止まるのは珍しいことではない。とくに飲酒した夜など、多少止まることはよくある。人人の場合、10秒間の呼吸停止が1時間に5回くらいであれば問題ないとされている。だが、睡眠時無呼吸症候群は1時間に15回以七も呼吸が庄まる。60回近く庄まる人もいて、この状態になると、1分ごとに、10秒も20秒も、首をグッと絞められたのと同じ状態で眠っているのだ。これでは「眠った気がしない」のも当然だ。 睡眠時無呼吸症候群は、さまざまなトラブルを引き起こす。 日中にマイクロスリーブが頻繁に起きる。 肥満、高血圧、糖尿病など、さまざまな生活習慣病になる。 血液が粘着質になり、心筋梗塞、脳梗塞が起きやすくなる。 休息できない。自律神経、ホルモン、免疫も正常に働かない。 重症の場合、放っておけば約4割の人が8年以内に死亡する。カナダの調査では、『睡眠時無呼吸症候群の人は、診断され治療がなされれば個人の年間医療費総額が半分ーに減る』というデータがあるほどだ。 睡眠時無呼吸症候群は、マウスピースで気道を広げたり、CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)という器具の装着で呼吸停止を防ぐといった治療で、比較的簡単に改善する。心配な人は、ぜひ診察を受けてほしい。「睡眠時無呼吸症候群」という睡眠障害の認知度は高まってきているようだが、まだまだ「肥満体型の中年男性がかかりやすい」イメージが強いようだ。 しかし、これは「体が大きい人」「ある程度年を重ねた人」に限った話ではない。老若男女、子どもも含めたすべての年齢で発症する。また、心不全などの疾患に合併してお年寄りが発症するリスクも高いので、注意してほしい。そんな睡眠障害のサインともされる「いびき」だか、厳密にいうといびきは口呼吸であり、口呼吸も睡眠の質を下げる。 哺乳類は本来、鼻呼吸が優位である。少し昔の実験だが、成長期のサルの鼻の穴をふさぎ、口呼吸をさせる実験があった。すると、サルの歯並びは、短期間に一目でわかるほど悪くなった。ちょうど両八重歯がぐっと前に突き出た状態だ。 鼻をふさがれ、過剰に気道を確保しようとしたために、歯に変異が起きたと私は考えている。これほど鼻呼吸は大切なのだ。 ここから、歯科矯正をする前、「就寝時に呼吸障害がないかを疑う」教訓がアメリカで生まれた。 アメリカではとくに歯科矯正が盛んなので、これは重大事項だったのだ。「眠っているのに眠気がとれない」という人は、起きているとき「鼻で吸って鼻で吐く」呼吸についても意識したほうがいい。 具体的には、「鼻で吸って鼻で吐く」腹式呼吸を日中意識してやってみてほしい。そのうえで、毎日眠る前に深呼吸をして交感神経を落ち着かせて副交感神経優位にしてみよう。この腹式呼吸が習慣になれば、睡眠中も口呼吸で眠らずにすみ、いびきも解消するだろう。かように睡眠の質が悪いと目に見えて健康被害が起きる。日中のパフォーマンスも確実に下がる。

ビジネスパーソンの場合、特殊な才能がある人以外はわずかな差が成功するかしないかの分かれ目となる。ネガティブインパクトはできる限り排除するのか得策だ。 また、あなたがリーダーだったり、重要なポストについているなら、睡眠の質を高めるのはもはや義務ぐらいに心得てほしい。 あなたの意思決定で多くの人が影響を受けるのに、質の悪い睡眠で頭がぼんやりしていたり、体調が悪かったり、ましてや仕事中にマイクロスリーブが起こったりするなど、言語道断だ。 事実、アメリカではリーダーほど眠りを大事にしている。『睡眠を大事にするのが、アメリカ上層部の強み』だと、つくづく感じるほどだ。 プライバシーの問題があるので詳しくは書かないが、世界的に著名なある研究者は、「眠っても疲れがとれないし、日中も頭が冴えない」と悩んでいた。 私は話を聞いてすぐに睡眠クリニックを紹介し、アポイントメントもとって差し上げたところ、「睡眠時無呼吸症候群」という診断が下された。 どんなにつらかったことだろう。毎日夜な夜な「見えざる手」によって首を絞められながら、必死に重要な仕事をこなしていた彼の負担の大きさに、胸が痛んだ。 睡眠時無呼吸症候群は恐ろしい病気だが、対症療法ではあるものの、効果絶大な治療法が確立されている。器具をつけ始めると、彼の睡眠の質はたちまち改善した。「自分がいかに研究に集中できていなかったのか、今でははっきりとそれがわかる。きちんと眠れることで昼間の眠気もなくなり、劇的にパフォーマンスが変わった。まるで、脳の移植手術をしたみたいだ」 治療後の彼のうれしい言葉は、今でも忘れられない。

睡眠時無呼吸症候群に限った話ではない。 今の睡眠の質が良くない人は、逆にいうと、眠りの正しい知識を得、眠り方を改善することで、脳がまるで新しく生まれ変わったかのように思考がクリアになり、仕事のパフォーマンスを上げられるのだ。 睡眠を変えることの効果は計り知れないーこの「眠りの質の重要性」を押さえたところで、次のステップである「眠りの質」を左右する「黄金の90分」について話を進めていくことにしよう。

夜に秘められた黄金の90分

「8時間寝たのに眠い人」と「6時間寝てすっきりした人」

「よく寝ましたか?」人と 同業者同士はこれが挨拶言葉だと教えてくれたのは、オペラ歌手の下崎響子さん。 表現者は体のコンディションが直接仕事に影響する。俳優、音楽家、みなそうだろうが、歌手はとくに「体が楽器」だ。 彼女の話を間いていてさらに興味深かったのは、寝しなにウオッカを飲んで眠る歌手が多いということ。 オベラは上演時間が長い。休憩も挟むから、長いものだと5時間もかかる。「幕が下りるのが夜の10時や11時」というのは当たり前だそうだ。 終わって身支度を整え、すぐに帰ったとしても、「はい、おやすみなさい」とはならない。スポットライトと大勢の観客の注目を浴びて全身全霊で歌い、喝采と歓声に包まれた脳と休は極度の興奮状態にある。そこでアルコール度数が強いウオッカをタイツとあおり、素早く訪れる酔いの力を借りて眠るらしい。大量のアルコールは睡眠の質を下げるが、度数が強くても量が少なければその心配はない。もちろん体質もあるが、飲んですぐに眠ることで、最初の90分、しっかりと深く眠れているのだろう。 ウオッカはアルコール度数が40度。なかには90度近いものもある強い酒だ。ワインはおよそ14度、ビールは5度程度だが、このようなアルコール度数の低い酒をだらだらと長時間飲むより、一口含んで目を閉じるのは入眠にはいいと思われる。

「最初の眠気のタイミングを絶対に逃してはいけない。眠くなったらとにかく寝てしまわないと、その後、深い眠りは訪れず、いくら長く寝てもいい睡眠にはならない」 私がこの話をすると、「そんなことは知らなかったけれど、経験としてやっているのかもしれませんね」と下崎さんは驚いていた。 眠りが翌日の公演に大きく影響すると、彼らは体で学んでいるのだろう。健康な人の場合、目を閉じてから10分未満で入眠する。心拍数がだんだん落ち着いて、交感神経の活動が低下し、副交感神経優位になっていくのだ。 入眠後には比較的短時間で一番深いノンレム睡眠にたどり着く。このとき、脳波を測定すると、「遅くて大きな波形が出る」ことから、ノンレム睡眠のことを「徐波睡眠」と呼ぶことは先にも書いた。質の良い眠りか否かは、ある程度脳波でわかるのだ。 その後、眠りは少しずつ浅くなり、突然覚醒時のような「振幅の小さい、早い脳波」が出現し、急速な眼球運動が始まる。レム睡眠の到来だ。幼児で顕著だが、このとき体がピクピク動くような筋肉の収縮が起こ 入眠から約90分問ノンレム睡眠が続き、90分後最初のレム睡眠が現れる。最初のレム睡眠は短く、数分程度のこともあり、レム睡眠の終わりで「眠りの第1周期」は完結する。 ノンレム睡眠の深さにはレベル1〜4があり、大服時は段階を経て深くなり、覚醒時は段階を経て浅くなっていく。 睡眠はこの繰り返しだ。第2周期以降のノンレム睡眠は、1回目ほど深くはならない。6〜7時間眠る場合は、90〜120分のスリーブサイクルを第4周期まで4回ほど繰り返すことになるわけだが、しつこいようだがその質は第1周期の質で決まる。
長く起きていると眠りたい欲求「睡眠圧」が蓄積し、眠るとこの圧が放出されるのだが、睡眠圧の放出が第1周期でもっとも強くなることも、実験で砿かめられている。

つまり、何時間寝ようが、最初の90分か崩れれば、残りも総崩れになってしまうということだ。「6時間睡眠の人」と「8時間降服の人」がいた場合、眠り始めの質いかんで、「6時間睡眠の人」のほうがぐっすり眠れていてすっきりしていることだってありえるのだ。 最初の90分がしっかり深く、その後も正しい睡眠パターンどおりになっていれば、「朝起きたときに調子がいい」「パフォーマンスが高い」のは当然で、逆に身体疾患や精神疾患のある患者は最初の深い90分のノンレム睡眠が出現しにくい傾向がある。 とくにうつ病を抱えている人ではこれが顕著だ。うつ病患者は最初のレム睡眠か、90分よりもっと早く出現する」と以前から報告されているが、むしろ私は、「うつ病では最初のノンレム睡眠の質が悪い」と思っている。つまり、『最初の90分の質が悪いことで、気分・体調・自律神経機能が整わない』典型的な例がうつ症状なのだ。

レムとノンレムは90分周期じゃない!?

「睡眠時間は90分周期が良い」といわれるのはスリープサイクル(睡眠周期)が根拠となっている。 睡眠は「第1周期=入眠→ノンレム睡眠→レム睡眠」「第2周期=レム睡眠→ノンレム睡眠→レム睡眠」の繰り返しでできており、1周期はおよそ90分といわれることが多い。通常、これが4〜5回繰り返され、眠りが浅くなるレム睡眠が現れたところで起きると良い、というわけだ。 ただし、スリーブサイクルにはかなり個人差があるため、実際の1周期はおよそ90〜120分と幅がある。そこで、「睡眠時間は120分の倍数か良い」としている研究者もいる。 したがって、起きるタイミングも個人の睡眠周期によって異なるのだ。なので、巷でいわれているように「90の倍数の時間眠る」ことにはそこまでとらわれる必要はないと、私は考えている。 ただ、共通していえることは、第1周期には深いノンレム睡眠が約70〜90分出現し、「大服時から90分の睡眠」が確保できれば深いノンレム睡眠が十分とれるということ。 これが黄金の90分の根拠だ。 「睡眠で.番大事なのはいつ?」と聞かれれば、それはやはり「最初の90分」。黄金の睡眠時間に関しては、やはり「90分」だというのが私の意見だ。 肝心なのは最初のもっとも深いノンレム睡眠に無事たどり着くこと。 睡眠の一周期が120分の人でも、もっとも深い眠りとなるのは人脈後90〜110分くらいだから、黄金といえるのはやはり眠ってからの90分である。 眠りにおいては「始め良ければすべて良し」。最初のノンレム睡眠が確保されると、たくさんのメリットかある。 ここからは「黄金の90分」で得られるメリットについて紹介する。まずは3大メリットをあげておこう。最初の90分か「黄金」になる3大メリット大服して眠りが深まっていくとき交感神経の活動か弱まり、副交感神経優位になる。「活動時は交感神経、休息時は副交感神経」という自律神経の役割交代がスムーズに進むと、脳も休もリラックスし、しっかり休息をとることかできる。 レム睡眠に入ると、脳波は覚醒時と近い波形を示し、交感神経の活動か活発になって呼吸や心拍が不規則に変化する。前述したとおり、自律神経は呼吸、体温、心臓や胃腸の働きなど、生命を維持するために欠かせないものであり、自律神経の不調は体ばかりか心の病気の原因にもなる。頭痛、ストレス、疲労感、イライラ、肩こり、冷え性など、『何となく調子が悪い』という違和感の根っこには、自律神経の乱れがあることが多い。 自律神経の重要性を、すでに知っている人も多いだろう。音楽や香り、絵本やストレッチなど、自律神経のバランスを整える方法論もたくさん提唱されている。 そのなかでも、『黄金の90分をしっかり眠る』というのは、自律神経を整える最高の方法だ。 自律神経のバランスがいいから深く眠れるのか、深く眠るから自律神経が整うのかといえばニワトリと卵のようだが、自律神経はそれだけ眠りと深くかかわっている。生物の体はすべて、24時間前後で1周する『固有の体内時計」をもっている。このリズムが『サーカディアンリズム(概日リズム)』と呼ばれているもので、実際には地球の自転に合わせて「24時間(日内リズム)」で動いている。入間の体内時計は24時間よりも長いわけだが、健常な人であれば地球のリズムである「24時間周期」に日々軌道修正されており、多くのホルモンもこの日内リズムの影響下にある。しかし、グロースホルモンの場合、日内リズムの影響も受けはするものの、その分泌量は圧倒的にノンレム睡眠の質に依存している。グロースホルモンは第1周期のノンレム睡眠時に際立って多く(70〜80%)分泌される特殊なホルモンで、『いつもなら寝ている時間』に起きているとまったく分泌されないのだ。 また、大服時間を明け方や日中にずらすと、入眠初期に分泌を観察することはできるが、夜間の第1周期ほどの大きな分泌は起きない。

グロースホルモンは子どもの成長にかかわっているが、若者や幼少期だけのものではない。量は減るものの、老人になっても分泌する。 前述したように成人のグロースホルモンは、細胞の成長や新陳代謝促進、皮膚の柔軟性アップや、アンチエイジングの役割も果たすとされている。生き生きと活動するためには、ぜひ味方につけておきたいホルモンだ。 最初の90分で一番深いノンレム睡眠が出現しないと、グロースホルモンの分泌は減ってしまう。残りの睡眠時間では、睡眠の深さも変わり、脳と体が覚醒の準備を始めるので、一晩通じての分泌量が極度に減少するのだ。 これを逆手にとれば、最初の90分を深く眠れば、グロースホルモンの80%近くは確保できることになる。 仮に5時間睡眠で起きなくてはならなくても、最初の90分をしっかりと眠れば、少なくともグロースホルモンの全体量はさほど減らさずにすむのだ。質の良い眠りにはノンレム睡眠だけではなく、レム睡眠も欠かせない。 たとえばうつ病患者には最初の深いノンレム睡眠がト分でなく、前述のようにレム睡眠もとても早く出現する(従来より、うつ治療として「レム睡眠断眠法」もある)。 また、日中何度も突然眠ってしまうナルコレプシー患者は、入眠時にいきなりレム睡眠が出現し、これが「金縛り発作」や「脱力発作」の原因になる。因果関係はまだはっきり解明できていないが、抗うつ薬の多くは「レム睡眠抑制」の作用があり、ナルコレプシー患者の「脱力発作予防」に用いられている。 そうしていったん病状が改善し、最初の深いノンレム睡眠が整うと、レム睡眠も整い、黄金の90分へと近づいていく。その結果、全体のスリーブサイクルも整うことがわかっている。

脳と眠りの関係は、まだ謎が多い。しかし、うつ病や統合失調症の患者は最初の90分が乱れている事実から、『黄金の90分には、脳のコンディションを整える働きがある』『脳のコンディションが黄金の90分に反映される』という仮説は成り立つだろう。

少数精鋭の「睡眠部隊」を味方につける

どうやって黄金の90分を手に入れるのか」というと、答えはいたってシンプルだ。 毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる。ベッドに入るのは目付が変わる前、できれば23時くらい。人間も日内リズムに支配されているので、夜になれば眠り、朝になれば起きるのは生物として理にかなっているだが、ほとんどのビジネスパーソンにとってこれは無理難題だろう。「もう、午前O時。でも、どうしても資料を作らなければならない」といった夜が、あなたにもきっとあるはずだ。そんな夜でも、徹夜だけは避けてほしい。私かおすすめするのは、眠気があるならまず寝てしまい、黄金の90分か終了した最初のレム睡眠のタイミングに起きて、資料作りにとりかかるという作戦だ。最初のレム睡眠も入れてわずか100分ほどしか寝ていないとはいえ、深く眠れていれば質は確保される。 また、最初にレム睡眠がやってくるタイミングは人によって多少違ってくるので、アラームをセットするならば「90分後」と「100分後」(ないし「110分後」)の2つをおすすめする。 この場合、睡眠量は明らかに不十分。しかし、質の面では「最低条件下の最大限のメリット」を得られることになる。

眠った時間の「100分」は、その後の効率アップで確実に元がとれるだろう。一方、眠気をこらえて明け方4時ごろに資料を作り終えて「せめて7時まで3時間寝よう」というのもよくある話だか、この場合、目が冴えてなかなか眠れない。 集中していた脳は興奮している。入眠のタイミングを逃しているから、仮にすぐ眠れたとしても、この時間では黄金の90分は出現しない。 また、サーカディアンリズムの働きで、朝が近づくにつれ、体は起きる準備を始める。明け方に「脳が活性化し、交感神経が高まる」レム睡眠が多くなることはすでに説明した。『明け方に深い眠りをとる』というのは、地球に逆らうやり方なのだ。 さらに、グロースホルモンはかろうじて分泌されるが、そのほかのホルモンは口内リズムの影響を受けているので、明け方に寝ると正常に分泌されない。 また、明け方には覚醒作用があるステロイドホルモンの分泌が始まるなどして、起きる準備もおこなわれる。 結局、明け方まで仕事をしてから眠っても、「ベッドに入ってうとうとしたけれど、寝た気がしない」という、量が少ないうえに質も悪い状態に陥る。逆に寝入った場合は深い眠りに入ってしまい、寝ぼけ眼で出社することに。これではレポートがたとえうまく書けたとしても、プレゼンは失敗だ。 黄金の90分の法則を知っているか知らないかで、翌日のパフォーマンスヘの悪影響を最小限にとどめられるか、最悪の結果に終わるかが決まってしまうのである。

日中、頻繁に眠気に襲われるナルコレプシー患者の夜には、黄金の90分か存在せず、頻繁に夜間目を覚ますことになる。 原因か結果かはわからないが、うつ病、統合失調症の患者も、眠ったところで黄金の90分か得られず、日

中に眠気を感じることか多い。 また、睡眠時無呼吸症候群の患者は眠ったとたん、1時間に15回以上「見えざる手」に首を絞められるので、当然、黄金の90分は得られない。それどころか目が覚めてしまうこともあり、日中はマイクロスリーブが起きる。日中の眠気も重大だが、もっと大変な身体疾患のリスクもあることはすでに述べたとおりだ。 レストレスレッグスシンドローム、日本では「むずむず脚症候群」といわれる病気には、眠っているときに勝手に脚が動いてしまう症状がある。加えてかゆみを感じることもあるので、やはり黄金の90分は訪れず、翌日のパフォーマンスは低下する。これらの事例から、どれだけ黄金の90分か大切なものか、おわかりいただけるだろう。疾患がなくても剃初の90分か乱れてしまえば、夜の世界が明けたとたん、『苦しい現実世界』の幕が上がるのである。 残念なから加齢によっても黄金の90分は出現しにくくなる。高齢の方も本書のメソッドに従って健全な睡眠をとり、健康な脳を維持してほしい。病気の人には適切な治療を受けていただきたいし、睡眠に悩む人には、これから収り上げる黄金の90分を確保する『2つのスイッチ』を手に入れてほしい。これが私の願いなのだ。

「体温」と「脳」に眠りスイッチがある

「睡眠は始めが肝心」とはいえ、多くの人が寝つきの悪さに苦労している。 毎日同じ時間に就寝するというやり方はサーカディアンリズムに合っており、寝つきを良くして深く眠るのに効果的なアプローチだ。

あなたのライフスタイルが、「規則正しい生活を送ることも可能」であれば、毎日の就寝時間と起床時間(とりわけ就寝時間)を固定しよう。これも立派な認知行動療法のひとつだ。 だが、規則正しい生活を送れない人もいるし、普段は規則正しくても、「明日は出張で4時起きだから、今すぐ眠りたい!」という日もあるだろう。90分だけ眠ってから資料を仕上げたい夜も、素早く脹れなければ時間がなくなる。 そこで本吉では、子どものようにすぐに眠れる、2つのスイッチを紹介したい。 そのスイッチとは……ずばり、『体温」と『脳』。「体・温」と「脳」というスイッチによって、あなたの体と頭はスリーブモードに切り替わり、睡眠が劇的に変わる。スムーズに眠りの世界の入りロヘとたどり着き、より深く眠れる。たとえ量が少なくても、質を最大限に高められる。途中で目が覚めてしまう悩みも減る。そして翌日は頭が冴え、パフォーマンスが向上する。 つまり、体温と脳は入眠を促すだけではない。睡眠の量が多かろうと少なかろうと、しっかり「質」を高めてくれる、何とも頼もしい味方なのである。まず、質の良い眠りであれば体温が下がる。この体温の低下が睡眠には欠かせない。人間の体温は、睡眠時より覚醒時のほうが高い。睡眠中は温度を下げて臓器や筋肉、脳を休ませ、覚醒時は温度を上げて体の活動を維持する。ただし、これはあくまで、体の内部の体温(深部体温)の変化の話だ。

体温は、「筋肉や内臓による熱産生」と、「手足からの熱放散」によって調節されている。 深部体温は日中高くて夜間低いが、手足の温度(以下、皮膚温度)はそのまったく逆で、昼に低くて夜間高い。 覚醒時には、通常深部体温のほうが皮膚温度より2でほど高い。皮膚温度が34・5での人であれば、起きているときの深部体温は36・5でということだ。 健康な人の場合、入眠前には手足が温かくなる。皮膚温度が上がって熱を放散し、深部体温を下げているのだ。このとき、皮膚温度と深部体温の差は2℃以下に縮まっている。っまり、スムーズな入眠に際しては深部体温と皮膚温度の差が縮まっていることが鍵なのだ。

 

皮膚温度か34・5での人であれば、睡眠時の深部体温は36・5でから36・2で程度に下がっているだろう。赤ん坊が眠くてむずがっているとき、ほっぺが赤くなって手足はぬくい(大人ではこれほど極端な変化はないが、同様の変化が生じている)。入眠時にはまず手足から熱放散が起こり、続いて深部体温の変化が起こるのだ。この変化を助けてやれば、入眠しやすくなる。これはヒトでの実験により実証されている。 入眠時には深部体温を下げ、皮膚温度は上げて差を縮める。これが黄金の90分を手に入れる1つ目のスイッチの入れ方だ。 この章の冒頭のオペラ歌手のエピソードでべた。「喝采と歓声に包まれた脳と体は極度の興奮状態にある」と述 ビジ希スパーソンの胴も、興奮、緊張している時間が長い。仕事のストレスや肉体的な疲労は、脳を常に活動モードにしてしまうからだ。また、仕事以外にも、運動や食事、スマホやコンピュータなど、脳を眠らせないトラップは無数にある。こう考えると、ビジネスパーソンのみならず現代人はみな、24時間脳が興奮しているといっていい。 また、脳が興奮していると体温も下がりにくい。不眠症にもいろいろな原因があるが、いわゆる「原発性不眠症」(身体疾患や、精神疾患などの特定の原因が見いだせない不眠症)では、不安定な体温下降や深部体温上昇が続く「過剰な覚醒状態」にあるという説も、昨今注目されている。 だからこそ、ウォッカよりももっと一般的で効果がある、脳のスイッチを知っておこう。「脳のスイッチ」を適切に切っていくことで、眠り始めの乱れを防ぐことかできる。 明るい部屋と暗く落ち着いた部屋、どちらが眠りやすく、またぐっすり眠れるだろう。答えはきっと、後者に集まるにちがいない。 そんな落ち着いた部屋で眠るため、寝室までの各部屋や廊下の電気を順番に切っていく「脳のスイッチオフ」とはそんなイメージだろうか。

それではここから、スタンフォードでの睡眠研究で得た知識を総動員した、より実践的な「睡眠メソッド」にステージを移そう。
あなたから束の間離れていた、「最高の眠り」を、もう一度、手元にたぐり寄せようではないか。

最高・最強の睡眠方法

体温と脳が「最高の睡眠」を生む

「ベッドに入ってもなかなか眠れない」という寝つきの悪さを訴える声は多い。 では実際、寝つきが悪い人とすぐ眠れる人では、入眠にかかる時間にどれだけの差かおるのだろう? 眠りに入るまでの所要時間を『入眠潜時』と呼ぶ。 エアウィーヴの実験で、若くて健康な人10人を集めて入眠潜時を計ったところ、平均7〜8分で眠った。これが正常植と考えていい。 比較のために、健康だが「寝つきが悪い」と自覚する55歳以上の人20人を集めて入眠潜時を計ったところ10分程度だった。 寝つきが良い人と悪い人の差は、わずか2分。「なかなか眠れない」と思っていても、実際は寝ているケースは意外なほど多いのだ。 なかには数十分寝つけない人もいるが、治療を要する睡眠障害は別にして、「最近寝つきが悪いかも」くらいの感覚であれば、それほど神経質になる必要はない。要は、「昼間眠気が強い」「頭がすっきりしない」「ミスが多い」など日中の覚醒度の低さが睡眠の質の良し悪しを判断するポイントになる。 ただし、私たちが暮らしているのは、コンピュータの影響やストレス、さまざまな刺激にあふれた「眠りにくい社会」だ。 かくいう私も恥ずかしいことに、就寝直前まで仕事をしたり、寝しなに気になるメールを見てしまったりしてその後、朝まで眠れなくなった経験がある。それに、「日本人は睡眠偏差値が低い」というデータも確認した。 そこで、入眠を阻害するファクターを排除し、体温と脳という「眠りのスイッチ」を操作する必要が出てくるのだ。睡眠医学は新しく長い間注目されていなかったと述べた。しかし、体温の重要性については睡眠よりも9く認知されていた。 睡眠研究に不可欠な幅広いデータを集めるため、私はメジャーリーグの球団幹部数人と面談したことがある。睡眠が選手のパフォーマンスに影響するという自説をもとに、良い睡眠をとるためのアイデアも用意していた。 ところが先方は「睡眠?うちの選手たちは起きているときが勝負なんだ。関係ない」とけんもほろろ。門前払いに近いあしらわれ方をされることが多かった。 しかし、実際のデータを示しながら「睡眠と体温は非常に強く結びついている」「体温変化で睡眠の質を向上させ、好成績を残す」という話をすると、相手の態度は急変した。トカゲなどの変温動物は文字どおり気温に合わせて体温が変化する。人間は恒温動物で哺乳類だから、体温はホメオスタシス(恒常性)でほぼ一定に保たれているか、同時にサーカディアンリズムの影響を受けており、体内時計によって口内変動(1日の中で変化)する。「平熱は36℃です」という人でも、1日の中で0・7℃くらいの変化がある。日中は活発に動けるように高く夜はゆっくり休めるように低くなるのが特徴だ。だからこそ、体温とパフォーマンスは密接な関係がある。本暦で何度か紹介している、タブレットの画面に丸い図形が出るたびにボタンを押す実験では、体温が高いときはパフォーマンスがいいが、体温が低いときはエラーが多いことがわかっている。 おそらくメジャーリーグの関係者は、体温がいかに大切か、実感として知っていたのだろう。だから彼らは、体温の話を持ち出したとたん、食いついたのだ。 今では球団ばかりか軍関係の組織も、睡眠学者だというと、真剣に耳を貸してくれるようになった。 メジャーリーグとミリタリーに共通するのは、肉体が資本であると同時に、鋭敏な思考力が不可欠だとい 軍人も、肉体だけ強ければいいわけではない。最先端テクノロジーを駆使するこの時代、明晰な頭脳であることが、命を落とすかどうかの分かれ目だ。 とはいえ戦下では理想の食事も休息も望めない。「規則正しく早寝早起き。たっぷり寝て、寝具も体にフイットしたものを」という願いは多くの場合、叶わないだろう。 良質な眠りは最高のパフォーマンスをもたらすだけでなく、ケガや事故の予防にもなる。一流アスリートでも軍人でも、ケガや事故は命取りだ。24時間過酷な状況で体と頭を整えるには、睡眠をとるしかない。ただし睡眠量は望めないから、質でしか対処できない。日中のパフォーマンスには体温と睡眠が大切で、両者は密接に関係している。だからこそ彼らは、「そういう話であれば、ぜひ聞きたい!」となるのだろう。「手が温かい子どもは眠くなる」これはまさに眠りと体温の関係を端的に表している。 前述したとおり、体温には皮膚温度と深部体温の2種類がある。 大事なポイントなので強調するが、入眠前の子どもの手足は温かくなり、皮膚温度を「上げて」いる。何が起きているのかといえば、いったん皮膚温度を「上げ』、手足にたくさんある毛細血管から熱放散することで、効率的に深部体温を『下げて』いるのだ。 なぜ深部体温を下げているのかといえば、それこそ眠りへの入り口だからである。 つまり、眠っているときは深部体温は下がり、皮膚温度は逆に上がっている?この事実を今、度押さえてほしい。 ここで場面を冬の山に移そう。「深部体温が下がると眠くなる」という話を聞いて、映画の「雪山で遭難するシーン」をイメージしたかもしれない。「寝るな!ここで寝たら死んでしまう!」というシーンだ。 では、このとき、体の中では、いったいどんなことが起きているのだろう? 極度の寒さの中、肺に冷たい空気が入り深部体温が急激に下がり始めると、大量のスイッチが入ると同時に体はガタガタ震え出す。体温維持は生命維持とイコール。何とか体温を上げようと、筋肉を動かして熱産生を開始する。 あまりの寒さにそれでも体温が上がらないと、体は動きをやめる。筋肉を動かすためにエネルギーを消耗してしまい、大切な脳を動かす分のエネルギーがなくなってしまったら一大事だからだ。 手足か動かなくても死なないが、脳が働かなければ確実に命は絶えてしまう。 脳の中でも、生命維持に必要な自律神経(呼吸、心臓、体温維持など)を司る部分は動かし続け、命に直接かかわりのない部分(思考、消化活動、筋肉の動きなど)は停止してスリーブモードになる。これが雪山で遭難すると「眠くなる」理由だ。だが、睡眠中は深部体温が下がる性質があるため、雪山で寝てしまうと通常よりさらに熱が奪われて低体温症になり、やがて死に至る。 また、深部体温は奪われていくが、手袋やブーツで手足は手厚く保護されている。この保温効果によって手足が温められていることも、眠気に起因しているだろう。 冷房で冷え切った会議室に悩む人は、雪山で遭難しそうな人と似た状況下にある。 いくら寒くても、会議中に体を動かすわけにはいかない。すると筋肉の熱産生ができなくなり、深部体温がうまく上がらない。脳は生命維持を第一に考えて必要な部分以外をスイッチオフにし、スリーブモードになる。つまり、寒い会議室のせいで体温が下がり、眠くなるのだ。 経験上、私が一番困るのは、「時差かある状態で臨む、寒い日本の会議室でのミーティング」。そういうときは居眠りできないように一番前の列の真ん中に座ることにしているが、ふと後ろを見ると、外国からの参加者はほぼ全員眠っていたりする。 だが、会議に必要なのは「生命維持には直接関係ない部分」だったりするから、仕事生命のほうが危うくなる。「春はぽかぽか暖かいから・居眠りしてしまう」というか(この現象は春特有で、実は原因は特定されていない。ただ、『秋から冬にかけては起こらない」ことだけはわかっている)、冷え切った冬や「キンキンに冷えた会議室」も眠気の原因となるので要注意だ。日常生活においては低体温症になるほどの冷房設備はまずないから、過度の心配はいらない。 だが、よくある睡眠本のように、『深部体温を下げれば眠くなる』というだけでは正しい理解とはいえないことを強調したい。 覚醒時の深部体温は皮膚温度より2℃ほど高いが、睡眠時は深部体温が0・3でほど下がるため、差は2で以下に縮まる。皮膚温度と深部体温の差が縮まったときに入眠しやすいという研究データは、1999年に『Nature』で発表されている。
前述したように、人切なのは皮膚温度と深部体温の差を縮めること。そのためにはまず、皮膚温度を上げ、熱放散して深部体温を下げなければならないのだ。
体温も「上げて(オン)/下げる(オフ)」のメリハリが大切だと覚えておこう。
①覚醒時は体温を上げてパフォーマンスを上げる(スイッチオン)。
②皮膚温度を上げて(オン)熱放散すると、深部体温は下がり(オフ)入眠する。
③黄金の90分中はしっかり体温を下げて(オフ)、眠りの質を上げる。
④朝が近づくにつれて体温が上昇し(オン)、覚醒していく。
このメリハリがあれば、最初の90分はぐっと深くなり、すっきりと目覚められる。
日中の体温も上がり、眠気もなくパフォーマンスが上がる。
では、いかに体温のスイッチをオン/オフするか、具体的な方法を紹介していこう。
睡眠クオリティを上げる3つの「体温スイッチ」
入眠時に意図的に皮膚温度を上げて
には欠かせない。
深部体温を下げる。この「上げて、下げる」というのか良質な眠り
さらに、深部体温のある作用を利用すれば、皮膚温度と深部体温の差をより縮めることができる。
そんな深部体温と皮膚温度をより縮める方法として紹介したいのが、『入浴』だ。

皮膚温度は変化しやすい。冷たい水に手をつければ冷たくなるし、お湯につかったり、ストーブに近づいたりするとすぐに上がる。 だからといって41でのお風呂に入ったら、皮膚限度や深部体温が41℃になるというわけではない。そんなことになったら病気になってしまう。   先ほど述べたとおり、人間の体は自律神経の働きでホメオスタシス(恒常性)が保たれているから、入浴による皮膚温度の変化はせいぜい0・8〜1・2℃程度だ。体は、筋肉や脂肪といった遮熱作用のある組織で覆われており、なおかつ深部体温はホメオスタシスの影響下にあるので、そう簡単に変勤しない。だが、入浴はその深部体温をも動かす強力なスイッチといえる。 入眼前の軽い運動も体温上昇効果がある。ただ、過度な運動をすると交感神経が刺激されるので入眠には不向きだ。疲労や痛みを伴うことも考えられるので、「眠りのため」にはおすすめできない。入浴に関する私たちの実験データでは、40℃のお風呂に15分入ったあとで測定すると、深部体温もおよそ0・5℃上がっていた。普段の深部体温が37℃なら、入浴後は37・5℃になる。 この「深部体温が一時的に上がる」というのか非常に重要で、深部体温は上がった分だけ大きく下がろうとする性質がある。なので、入浴で深部体温を意図的に上げれば入眠時に必要な「深部体温の下降」がより大きくなり、熟眠につながる。

 

0・5℃上がった深部体温が元に戻るまでの所要時間は90分。入浴前よりさらに下がっていくのはそれか
らだ。
っまり、寝る90分前に入浴をすませておけば、その後さらに深部体温が下がっていき、皮膚温度との差も
縮まり、スムーズに入眠できるということだ。
午前0時に寝たいなら、こんなタイムスケジュールになるだろう。

・22時00分入浴。湯船に15分つかる。皮膚温度、深部体温ともにアップ。
・22時30分入浴終了。皮膚温度は0・8〜1・2℃、深部体温は0・5℃上がっている。汗をかくなどして熱放散スタート。
・0時00分熱放散により深部体温は元に戻り、さらに下がり始める。このタイミングでベッドに入った状態でいること。
・0時10分入眠。皮膚温度と深部体温の差は2・○℃以内に縮まっている。

実際はこれほど緻密ではないが、目安としてはこんな具合だ。
体温は上がったら自然に下がるものだが、熱放散には扇風機なども効果的だ。
夏の暑いときは、「お風呂上がりに扇風機に当たる」と言う人も多い。これはより熱放散を活発にし、上がりすぎた体温を本能が下げようとしているのだ。

逆にいえば、人浴後は熱放散のために夏も冬も発汗している。「寒い時期だから」とすぐに着替えて分厚いガウンなど着込んでしまうと、熱放散がうまくいかず、深部体温が下がらなくなる。

40で未満のぬるいお風呂に15分より短い時間入った場合は、深部体温は0.5でも上がらないし、元に戻るまで90分もかからない。ゆえに『忙しくて、寝る90分前に入浴をすませるなんて無理だ!』と言う人は、深部体温が上がりすぎないように、ぬるい入浴かシャワーですませよう。紹介した入浴と体温のデータは、スタンフォードと秋田大学が協力しておこなった実験によるものだ。 40でのお風呂に15分入ると深部体温が0・5で上がるというのは普通のお湯によるデータだが、秋田には良質の温泉がたくさんある。 そこで、SCNラボOB・OGの秋田大学の神林崇氏、上村佐知子氏らとの共同研究で、温泉と普通のお風呂の比較をすることにした。炭酸泉、ナトリウム泉、普通のお風呂それぞれの体温の変化を調べたのだ。通常、炭酸泉は温度か低いか、比較のために40でとした。 すると、炭酸泉やナトリウム泉といった温泉浴のほうが普通浴よりも深部体温が大きく上がった。熱放散後の深部体温も、温泉浴のほうが普通浴より大きく下がることもわかった。 さらには睡眠第1周期のノンレム睡眠の振幅も大きくなった?最強の「90分の黄金のノンレム睡眠」が現れたのだ。この結果から、睡眠のスイッチとしては深部体温を大きく上げて下げられる「温泉』のほうが強力といえ ただし、ナトリウム泉は入浴後の疲労感が強い。いわゆる「湯疲れ」や「のぼせ」が起こってしまうのだ。「湯疲れ」には複数の原因があるが、「発汗による水分ミネラルの流出」「入浴前後の血流量変化」などで生じる。 その点、炭酸泉は、普通浴と同じように湯疲れがない。温泉のメリットが大きいうえにデメリットが少ないのであれば、湯治などで長期滞在する人、ケガの後のスポーツ選手、疲れを癒しに温泉に行く人は、炭酸泉をチョイスするのもいい。 理論的には市販の炭酸入浴剤でも同じ効果があるはずだが、炭酸濃度や成分が天然炭酸温泉と同じかどうかは微妙なところだ。良いものもあるし、悪いものもある。余談かもしれないか、入浴剤に限らず、科学的だと謳う商品に対する選択眼を鍛えてほしい。 たとえ話ではあるが、「マウスにこの成分を体重の10分の1(約3グラム)与えたら、60%のマウスは痩せた」という実験データをもとに、その成分がわずか1グラム(ヒトの場合、体重の10分の1なら数キロ必要)も入っていない商品が「科学的エピデンスに基づくダイエットサプリー」として、販売されていることもあるのだから。

足湯に秘められた脅威の熱放散力

「時間がないならお風呂よりシャワー」と書いたが、シャワーよりも効果的な即効スイッチがある。それは『足湯』。 風呂上がりに暑くてたまらないときは、体幹も汗をかき、熱放散している。北欧ではサウナに入ったあと、雪が積もった戸外に裸で飛び出していくが、深部体温が大きく上昇していて、熱放散しているときでも基礎値より体温が高いから平気なのだろう。だが、熱放散の主役は体幹ではない。熱放散を主導しているのは、表面積が大きくて毛細血管か発達している手足。なので、『足湯」で足の血行を良くして熱放散を促せば、入浴と同等の効果があるのだ。入浴は物理的に時間がかかるが、足湯ならさほどでもない。入浴はおもに「深部体温を上げるアプローチ」。体温が大きく上がって大きく下がる分、時間がかかる。その点、足湯はおもに『熱放散のアプローチ」。体温の上昇は大きくないが、その分深部体温を下げるのに貢献してくれる。寝る直前でもオーケーという点からも、足湯は多忙なビジネスパーソン向けだ。 足湯の目的は「足の血行を良くして、熱放散を活発にすること」だから、マッサージでも同等の効果は期待できる。ただし、自分で足をマッサージすると体に力が入ってリラックスできなかったり、やり方を工夫して脳が疲れたりと、睡眠には向かない。 家族が寝る前に足のマッサージをしてくれるというケースも、ゼロではないだろうがレアだと思う。 やはり、風呂桶ひとつでできる足湯が現実的なチョイスといえそうだ。シャワーで重点的に温めるなどやり方はいろいろあると思うので、ぜひ工夫して寝る前に足も温めてほしい。「足が冷たくて脹れない」と言う人は多い。とくに女性に多いようで、「寝るときも靴下を履いています」という話をよく聞く。 冷え性の原因はいろいろで、「血管が細い」という遺伝の影響もある。たばこも血管を細くするから、ヘビースモーカーはたいてい冷え性だ。いずれにしろ手足などの末梢血管が収縮しており、熱放散が起こらない。だから靴下で足を温めて末梢血管を広げ、血行を良くするのは理にかなっている。『靴下を履いて足を温める→靴下を脱いで熱放散し、深部体温を下げる→入眠』 このようなプロセスが理想だ。だが、冷え性で悩んでいて「靴下を履いても足は冷たいまま」と言う人は多い。なかなか寝つけず、結局は履いたまま入眠したり、「重ね履き」したりすると聞くが、靴下を履いたまま寝てしまうと、足からの熱放散が妨げられてしまう。 足から熱が逃げない状況は「深部体温が下がりにくい」ことを意味し、「眠りの質の悪化」にダイレクトにつながる。一時的な着用にとどめるか、よほどの冷え性でもない限りは避けたほうか眠りのためだろう。 脱がない靴下は、眠りの助けにならない。運動やマッサージなどで、日ごろから手足の血流を良くすることが必要だ。電気毛布や湯たんぽを使う方法もあるが、ずっと温めていたら今度は熱がたまる『うつ熱』現象が発生し、熱放散が起きなくなる。もし使うのであれば、寝る前だけにしよう。温まって血行が良くなったところで外して眠れば、熱放散が促進される。 ほかにも「寒くてたまらないなら太い血管を温めよう」と、ネックウォーマーで首を温めたり、足の付け根を使い捨てカイロなどで温かくしたりする人もいる。たしかに首や鼠蹊部には太い動脈が通っており、発熱時や熱中症のときに素早く体温を下げるには、首や足の付け根を冷やしたほうがいい。だが、生理的な熱放散がおもに起こるのは、あくまでも、表面積が大きく毛細血管が発達している手足だ。 結局のところ冷え性の人に一番いいのは、抜本的な体質改善。 運動不足を解消して血流量を増やす、たばこをやめるといった生活習慣の改善だ。 それは長期的な取り組みとなるから、まずは入浴や足湯で血流量を増やそう。眠りというと寝具の話になり、どんなものがいいかという相談をよく受ける。 掛け布団より敷布団のほうが材質による違いは大きい。SCNラボOBの千葉伸太郎氏(現、慈恵医科大学)と私が調べたところ、沈み込むマットレスと、高反発のマットレスでは熱放散が大きく違ってくるので、入眠前半の深部体温が0・3℃も違う(高反発のほうが低い)というデータもある。

だが、どんなにいい寝具でも、室温を整えておかないとメリットを引き出せない。 日本は・局所だけを温める文化だから、真冬でも部屋は寒い。「寒い部屋にコタツだけ」あるいは「分厚い布団でエアコンなし」というのも珍しくないが、体温のスイッチとして効果的なのは快適な室温だ。 たとえば、室温が高すぎると、必要以上に汗をかく。 入眠後は自然と体温が下がる。そのうえ、発汗による過剰な熱放散があると、体温が下がりすぎて風邪をひいてしまう。 これが、夏風邪の原因のひとつだ。また、温度が高いと湿度も高い場合が多い。湿度が高すぎると発汗しなくなり、手足からの熟放散を妨げられ、眠りが阻害される。「うつ熱」が起きるのだ。夏に脹れなかったり、高齢者などが入眼中に熱中症になるのはこのためだ。水分補給と吸湿性の良い寝間着や寝具が対策としてよくすすめられているが、うつ熟に関しては『室温』『湿度』による影響のほうが強い。 逆に室温が低すぎると血行か悪くなり、熱放散も起こらず眠れないだろう。 睡眠に悩んでいるなら、意識を切り替えて室温も整えてほしい。今はエネルギーを抑え、環境に配慮したエアコンもたくさん出ている。 適温は個人差が激しいので、厳密に「○℃が良い」とはいえないのだが、冷房をつけたままで眠り、体温が下がりすぎて風邪をひくのも、『お休みモード』といったタイマー設定で解決するだろう。 体温は外気温にすぐには反応しないので、睡眠ステージごとに室温を調整する必要はないと思われる。しかし、眠りのステージに応じて室温がコントロールできれば快眠を促す可能性も高く、実際そういった機器も開発されている真っ最中だ。

脳の温度は深部体温の動きととても似ており、入眠時にはやはり低くなる。ただし、深部体温の変化はノンレム睡眠・レム睡眠中でわずか。 睡眠中、体温は全般的に下がったままなのに対して、脳の温度はレム睡眠のときに少し高くなる。「夢見る」レム睡眠時に脳は起きていて、脳血流量も増加するからだ。 とはいえ、睡眠中には脳を休めなければならず、休めるには温度を下げたほうがいい。アメリカで不眠症治療に取り組んでいる研究者のなかには、頭のクーリングデバイス(冷却装置)を考案している人もいるが、なかなか手ごろなものか手に入らないのか現状だ。 通気性がいいと温度は下かるので、その意味では日本の『そば殼枕』も有効だと思われる。アレルギー問題などもあるが、今は技術の発達で、そば殼と構造が同じプラスチックビーズも開発されている。 ちなみに枕の高さについては、気道を確保することを考えると低いほうがいい。ただし体型はみな違うし、首のカーブも違う。 さらに眠りには好みが大きく関係するから、個人差が大きい。残念ながら枕についての絶対解はないというのが私の見解だ。

熟眠をもたらす覚醒戦略

「どう起きているか」でぐっすりか否かが決まる私は睡眠の専門家であると同時に覚醒の専門家でもあると自負している。たとえば、私の専門であるナルコレプシーという睡眠障害の対策は「突然の眠気を抑える]ことではない。大岡なのは『覚醒のスイッチ』を押すことだ。 いってみれば眠気に対して我慢するという防御ではなく、覚醒というスイッチで攻撃する。「攻撃は最大の防御なり」なのだ。睡眠と覚醒はセットになっている。朝起きてから眠るまでの行動習慣が最高の睡眠をつくり出し、最高の睡眠が最高のパフォーマンスをつくり出すのだ。 これか、覚醒と睡眠の「良循環」である。覚醒と睡眠が表裏一体である以上朝ぐずぐずと寝坊をし、一日を眠気とともに過ごし、悪影響を及ぼすような昼寝をすると、夜になっても睡眠のスイッチが入らない。 入眠潜時が長引いてなかなか寝つけず、服ったところで浅く、黄金の90分を逃してしまい、睡眠全体の質が下がる。そして翌朝、起きられない……まさに悪循環だ。不眠症の患者を見ていると、やはり全体に脳が過活動になっている可能性がある。夜になっても脳の興奮が収まらないのだ。『不眠症は朝から始まる』としばしばいわれるのは、このように睡眠と覚醒がセットになっていて、朝から脳の過活動が始まっているからである。

ビジネスパーソンの大多数も、おそらく脳の活動が過剰になっている。夜になっていきなり「さあ、脳を休ませて寝よう」とは、なかなかならない。 だからこそ、あなたが今、睡眠に悩んでいるのなら、朝からの覚醒行動を変えていこう。「体温のスイッチ」と「脳のスイッチ」で.私たちは眠る。では、「覚醒のスイッチ」はどんなものだろう?「神経回路のどこを剌激したら起きるのか』『どこを刺激したら寝るのか』というシステムは、現在かなり解明されている。 ノーベル賞の有力候補と目されているスタンフォード大学のカール・ダイセロス氏の研究は、その最先端として世界中の注目を集めた。 彼は「オプトジェネティクス(光遺伝学)」という学問領域の先駆者だ。標的とした神経細胞群に「光に反応する物質」を発現させ、頭の中に細い「光ファイバー」を入れてそこに光を当てることで、脳の神経細胞を自在に興奮・鎮静させる研究をおこなっている。 平たくいうと、「昔であれば脳に電極を入れて電気刺激を与える」ことでしか見られなかった反応が、「光を当てるだけでわかる」ようになった、ということだ。 実際にマウスを用いて、光で「覚醒/睡眠」を操る実験をしたことがある。 先ほど「覚醒の役割をもつオレキシン」という神経伝達物質を紹介したが、オレキシンは2か所の研究所で同時に発見されたため、2つの名前をもっている。 サンディエゴのスクリプス研究所のルイス・デレシア氏が発見した「ヒポクレチン」はそのひとつ。私とSCNラボの藤木通弘氏は、彼に「マウスで睡眠を記録する方法」を教えた。デレシア氏はダイセロス氏の協力も得て、このヒポクレチン神経細胞に「光に反応して興奮させる受容体」を発現させ、そこに光刺激を与える実験をした。すると、それまで眠っていたマウスが瞬時に起きたのだ。この「マウスのヒポクレチン神経細胞に光を与えると覚醒反応が得られる」発見は世界初で、『Nature』に報告している。 ちなみに、同じやり方で「光に反応して抑制させる受容体」を発現させ光刺激を与えれば、マウスを瞬時に眠らせることも可能である。 かように科学は進んでいる。 だからといって、ビジネスパーソンが気軽に「じやあ、今から寝たいので、光刺激で覚醒系ニューロンをオフにしよう」とか、「光刺激で今から3時間ぐっすり寝て、その後また光を当てて良い目覚めを起こす」という段階ではない。将来はこういったことも可能になるだろうが、それ以前にパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症などの神経難病治療への応用が期待されている。 しかし現時点でも、理論を応用すれば「覚醒のスイッチ」を特別な道具を使わなくてもオンにすることは十分可能だ。科学的に根拠があり、かつ良睡眠の効果が期待できる覚醒のスイッチのオン・オフ法を紹介するので、意識して取り入れてほしい。そしてその鍵は、2つの覚醒のスイッチを押すことである。2つのスイッチ、それは「光」と「体温」だ。 人間はおよそ『24.2時間』のサーカディアンリズムで動いている。そんな私たちが、24時間の地球のリズムに同調できるのは、光があるためだ。 では、光がなかったらどうなるのだろう? マウスのサーカディアンリズムは24時間より短く、たとえば「23・7」時間の種類もいる。 このマウスを光がまったくない状態に置く実験をすると、彼らは固有のリズムで生活することになるので、生活の開始時間が毎日18分ずつ早くなる。マウスの体温の変化から、彼らにとっての「生活開始」は、ヒトでは起床や洗顔、朝食にあたると思われる。 この条件で1か月飼育を続けると、夜行性のマウスはなんと、昼の時間帯に活動しだすのだ。 地球のリズムに影響を受けず、生物固有の体内時計でのみ生きるこのような状態は『フリーラン』状態と呼ばれている。 人間の場合、光がまったくないとまともな生活ができず、発狂する可能性があるので、軽作業ができる程度の薄明かりで同じ「フリーラン」実験をおこなう。そのため、光の影響を完全に除去できず、よく「人間の体内リズムは25時間」といわれていた。 しかし、今は「24・2時間」と、それより短いと考えられている。 光はいうまでもなく、朝、昼、晩をつくり出す。季節によっては夜が長くなったり短くなったりするが、24時間の周期性になっていることは間違いない。私たちの朝と夜は光なしでは・訪れないし、体温、自律神経、脳やホルモンの働きも、光がないとリズムが崩れて調子が悪くなってしまうのだ。 奈良県立医科大学の佐伯圭吾氏、大林賢史氏が実施した、平城京に住む高齢者を対象にした1000人規模の調査がある。 白内障(光感知機能が減弱した)患者を「治療のため手術を受けるグループ」と「受けないグループ」に分けてデータを集積したところ、手術を受けたグループで認知機能が良かった。これは、光の刺激が脳の活性化に影響を与えることを示す大事な報告である。 また、『夜間の豆電球程度の明かりが、肥満や脂質代謝異常のリスクも増やす』というユニークな発表も、同グループはおこなっている。 これほど大切な光は、窓を開けるだけで簡単に手に入る。朝は太陽の光を必ず浴びる習慣をつけよう。数分程度の少しの時間でいいし、雨や曇りで太陽が見えなくても、体内リズムや覚醒に影響を与える光の成分は脳に届いているから大丈夫だ。 体温はサーカディアンリズムの影響をもっとも受けている。睡眠中は下がり、覚醒時は上がる。このリズムを外的要因で崩さないようにすることか大切だ。 要は、覚醒時はしっかりと体温を上げてスイッチオンにしておくのが、良い覚醒を保つうえでは大事なのだ。光と体温、この2つがおもにいい覚醒をつくっているといえるが、そのほかにもホルモンや神経伝達物質もその一翼を担っている。これら、人脈に比べるとたくさんある覚醒のスイッチを押すための1日の行動習慣を紹介していこう。朝から順番に実行していけば、その夜の睡眠の質は確実に上がるにちがいない。

睡眠レベルをさらに高める「スタンフォード覚醒戦略」

最高の睡眠をつくる覚醒のスタートを切るうえで「目覚めをよくする」ことは欠かせない。 個人差はあるものの、人はおよそ90分サイクルで眠りの周期を繰り返す。朝に近づくにつれ、ノンレム睡眠が減り、レム睡眠が増える。体温はゆるやかに上昇し、交感神経優位になってくる。 また明け方には、血糖値の調節などで重要な役割を果たす「コルチゾール」というホルモンの分泌ほが増えるのも重要なポイントだ。コルチゾールの分泌は明け方ピークを迎え、午後に近づくにつれて減少し、睡眼中の前半ではほとんど分泌されない。朝の覚醒前に分泌が多くなるのは、その日の活動への準備とも考えられている。 では、この「脳と体が目覚めの準備をする」どのタイミングで起きれば、良い覚醒へのスタートを切れるのだろうか?冒頭でも書いたが、「入眠から90分の倍数(すなわちレム睡眠のとき)に起きれば、頭もすっきりして爽快感か得られる」という説は根強い。 1970年代の報告だが、いつ起きたら爽快感があり、その後のパフォーマンスが上がるかを調べた実験かある。すると、明け方のレム睡眠のときに起きると良いという結果が出た。それで、レム睡眠の出現に合わせて起きる「90分の倍数」説が広まったのだろう。 だが、実際にはこのスリーブサイクルには個人差があり、それほど規則的でないため前もって予測できないのは、あなたも確認したとおり。この「90の倍数」説は、あまりに大ざっぱな提案といわざるをえない。 ただ、あまり神経質にならなくても、明け方はレム睡眠の持続時間が良いので、レム睡眠のときやその直後に自然と覚醒していることが多い。 そもそも、レム睡眠がいつ出現するかを調べるのは難しい。筋電図、脳波、眼球運動を普通の家庭のベッドサイドで測るのは現実的ではない。 今は眠りの深さを測定する睡眠アプリや腕時計型の装置などかあり、同じ理論を応用した目覚まし機能などもつけられているが、現段階ではどれも「レム睡眠の検出」においては正確性に欠ける。そこで私が推奨するのは、『起床のウィンドウ(余白)』をつくる方法。具体的には、アラームを2つの時間でセットするというものだ。手順はごくシンプルで、仮に7時には絶対に起きなくてはいけないとしたら、6時40分と7時の2つの時間にアラームをセットする。6時40分から7時までの20分を『起床のウィンドウ』とするのだ。

朝方であれば、レム睡眠の時間は長くなっているし、20分前後で「ノンレム→レム」の切り替えがおこなわれている。このタイミングをねらう作戦だ。 実行にあたっては、1回目のアラームは『ごく微音で、短く』セットすることを心がけてほしい。 というのも、レム睡眠時は覚醒しやすいので、小さい物音でも目覚めやすい。小さい音でアラームに気づければ、「レム睡眠で起きられた」ということなので、目覚めは良いはずだ。 —回目のタイミングで起きることができなくてもかまわない。なぜなら、このとき目覚めなければ「ノンレム睡眠」で深い眠りの真っ最中ということだからだ。仮に音が大きいとノンレム睡眠で起きてしまい、目覚めの悪さにつながってしまう。 アラームが通りすぎるのは怖いかもしれないが、ご安心を。2回目の7時のアラームでは、無理なく起きられるはずだ。この「2つのポイントでセットする方法」なら、最初のアラームが鳴った際、あなたがノンレム睡眠中なら「悪い目覚め」をスルーでき、レム睡眠のときに起きられる確率が、条件によって多少変わるが約1・5倍になる。「なら、スヌーズ機能で良いのでは?」と思われるかもしれないが、個人的にはおすすめしない。スヌーズだと、ト分な時間が空けられず、起きにくいノンレム睡眠で何度も警告音が鳴り響き、目覚めも良いはずがないからだ。 5〜7時くらいの時間帯であれば、生理的にレム睡眠が増えているので、目覚めが良くなる確率はかなり高い。 逆に、「会社がフレックスだから9時まで寝ていよう」というのはおすすめできない。コルチゾールの分泌か始まり、体温も上昇する、まさに起きる準僅か整った体で寝ていても、良い睡眠はとれないだろう。次に記すが、朝の光や食事はリズム形成に非常に重要で、このスタイルだとみすみす自らリズムを乱している。 また、『朝早くから目覚めるが、布団からなかなか出られない」のはうつ病の兆候で、その間布団の中で不安や緊張が強くなってあらぬことを考えてしまいがちなので、注意してほしい。目が覚めれば自然に体温は上がっていくが、すぐに行動することでさらに体温のスイッチがしっかりオン?になる。 ただし、血圧が高めの人は、血圧の急上昇を抑えるために目が覚めてすぐに起き上がるのは避けたほうがいい。ゆっくりとベッドから出よう。 ベッドから出たら、天気にかかわらず朝の光を浴びる。これは何かあっても欠かしたくない行動習慣だ。ごくシンプルだが、効果はとてつもなく大きい。 夜に働いて昼に眠るシフトツーカーは、光と連動した生活が難しく、24時間という地球のリズムに同調しにくい。人間がもともともつ「24・2時間」のサーカディアンリズムのままだから、どんどん時間がずれていってしまうのだ。 典型的なのが、全盲の人のケース。網膜に障害がある全盲の人の場合、光を感知できない。そのため、生活がどんどん「フリーラン」し、後退していく。すると、「昼間に寝て、夜ずっと起きたまま」という状態が河口か続き、また戻っていく・・・これが繰り返されることに。家族にしても、本人にとっても本当につらいことだ。 だが、1991年、「メラトニン」をこういった患者に役々するとフリーランがリセットされ、24時間に同調でき、夜間普通に就寝できることを、オレゴン健康科学大学のロバート・L・サック氏、アルフレッド・J・レビー氏らか報告した。 この研究によって「睡眠・生体リズムにはメラトニン」と、一躍脚光を浴びた。

処方箋が不要で、入手も簡単なことから、アメリカでは今も約200億円売れている人気のサプリメントだ。昔は、ブタの脳にある松果体から抽出し精製してつくられていたが、今はより安全な、合成のメラトニン・サプリが生産されている。 だが、メラトニンのサプリは効く人と効かない人がいる。 メラトニンのサプリを飲んで効果があるのは、おもに高齢者。加齢とともにメラトニンの分泌量は減っていく。光の刺激に対する感受性は、加齢によって弱くなるので、メラトニンの分泌リズムが崩れるのだ。 つまり、若くて視力に障害がない人は、サプリなど飲まなくても自前のメラトニンがつくれるので、安易にサブリを飲むより「きちんと分泌させる」ほうに意識を切り替えたほうがいい。そのための行動習慣を身につければ、メラトニンを調整する力が無料で手に入る。かように、メラトニンには「体内リズムを整え、眠りを推進させる」力があるので、覚醒の段階では、分泌を抑えなければいけない。 そんなメラトニンの分泌抑制に大きく貢献してくれるのが、『太陽の光』である。「メラトニン分泌を抑えるには、太陽の光でなければならない」というわけではないが、ここはまだまだ研究が途中の段階で、実生活で使うにはまだ少し時間がかかる。 なので、一番身近な朝の太陽の光をふんだんに利用しよう。 太陽光にしろ人工の明かりにしろ、光をキャッチするのは目である。人間は網膜に「メラノプシン」という受容体があり、それが470ナノメーターというある特定の波長の光を感知すると、メラトニンの分泌か抑えられる。この現象は視覚とは別のものなので、太陽を直接見なくても、日の光に当たるだけで効果が得られるのだ。 メラトニン調節の一端を担う「メラノプシン」について報告されたのは15年以上前。最新のものではないが、まだまだ認識は低く、これから「ホット」な分野だけに、その覚醒作用の応用が期待されている。

「上行性網様体」は脳幹部の中心にあるいろいろな縁組が網のように走っている部分。動物実験でその部分を破壊したところ、寝たような状態になることかわかっている。裏返せば、『上行性網様体を刺激すれば覚醒する』ということだ。 たとえば、聴覚、視覚に注意喚起すると、上行性網様体は活性化する。夜中の救急車の音やパトカーのサイレンで目が覚めたことはないだろうか。真っ暗な部屋を突然明るくすると、寝ていた子どもが目を覚ましてしまうこともある。この性質を生かして、朝は感覚を剌激し、すっきりと覚醒しよう。け 家の中ではスリッパを履いている人が多いと思うが、起き抜けはあえて裸足にしてみるといい。これは単純だが2つの効果が期待できる。1つは床にじかに触れることで皮膚感覚を剌激して、上行性網様体を活性化させること。もう1つは、裸足で皮膚温度を下げ、サーカディアンリズムで自然に上がっている深部体温と皮膚温度の差をさらに広げること。「皮膚温度と深部体温の差が縮まると眠くなる」という性質を逆手にとるのだ。 とくに冬場には、今まで避けていた洗面台回りやキッチンの「冷たい床」が覚醒のスイッチとなってくれるので、ぜひ一度試してほしい。起きたら顔を洗う。誰もが当たり前にしていることだ。しかしこれも、ちょっとした工夫で覚醒のスイッチがしっかり入る。 まず、脳を目覚めさせるために、手を冷たい水で洗う。朝は深部体温が上がっている状態なので、于を水につけることで、深部体温と皮膚温度の差を少しでも広げるのがねらいだ。 ちなみに歯磨きも、「冷たい水で」という習慣があってもいい。冷水が深部体温に対する効果は限定的だとしても、リフレッシュや気分の引き締まりになるだろう。 朝に入浴する人も多いか、『朝風呂』はあまりおすすめできない。「お風呂に入って体温を上げると活動モードになるからいいのでは?」と思うかもしれないが、体温は大きく上がるとより下がろうとする性質があった。 前述したとおり40でのお風呂に15分くらい入ると深部体温が0.5でほど上がる。これは大きな上昇なので、しばらくすると体温は下がり、眠くなってしまう。 こうしたことを考えると、朝はシャワーがおすすめだ。 脳のスイッチオンのために、シャワーを浴びて爽快感を味わおう。気分を引き締めて仕事に行くモチベーションを上げるのにも一役買ってくれる。起きたらおなかがすいている」 これは、胃が良い睡眠をとれているかどうかのバロメーターだ。 とはいえ、体全体が目覚めるのを待ってから内臓を動かすほうが良いので、まず朝日を浴び、次にシャワーを浴び、朝食をとるのがいいだろう。もちろん、朝は時間との闘いという人も多い。洗顔だけすませて、光を浴びながら朝食というのもありだ。 朝食には、体温を上げ、一日のリズムを整えて活動を始めるためのエネルギー補給という役割がある。 早稲田大学の柴田重信氏らが、マウス実験でこんな報告をしている。「朝食を抜いて、夕食だけの食事」をしたマウスや、「1日2食でも、夕食のほうを重めにとった」マウスは、なんと肥満になりやすかったというのだ。つまり、朝食には『体内時計のリセット効果』と『肥満防止効果』があり、まさに一石二鳥なのだ。ちなみに、私の朝食は20年間ずっと白いご飯にみそ汁、ベーコンエッグだ。

温かいみそ汁は、体を温めてくれる。スープでもみそ汁でも、汁物は体温を上げるので、覚醒を助けるためにも朝食に加えるといいだろう。 また、アメリカのカリカリのベーコンは強く噛まねばならず、それが脳への剌激にもなっている気がする。「噛む」というのはとても大切なことだ。SCNラボの姉川絵美子氏、酒井紀彰氏が、マウスを使って「噛むことと体内リズムや睡眠」についての実験をおこなった。 マウスの飼育には通常固形のペレットを与える。すると、彼らは好んでペレットをカリカリ砕きながら食べる。そこで、通常のペレットと、ベレットをミキサーで砕いて粉末で与えたマウスの睡眠・行動パターンを詳細に調べた。比較すると、固形食の『噛んで食べるマウス』には、睡眠や行動パターンに夜昼のメリハリがあることがわかった。逆に、粉のエサを与えた「噛まずに食べるマウス」は、夜長のメリハリがなくなった。活動期の睡眠量が通常のマウスより多くなり、覚醒すべき時間に活発に活勤しなくなったのだ。 また、「噛まずに食べるマウス」は、記憶にも悪影響が及んでいた可能性もある。 脳内には何千億個も神経細胞があるが、がっては「大人になると神経細胞は減る一方」と考えられていた。 しかし、実際には大人になってからも脳内で新たな神経細胞が生まれる「神経新生」という現象が起きており、これは運動などで増強できると考えられている。 そこで、人人や老人でも「よく噛んで記憶力を良くしよう」などといわれるようになったのだが、「噛んで食べるマウス」でも、記憶を司る海馬で神経新生が起きているのが確認できた。逆に、『噛まずに食べるマウス』の海馬では、明らかに神経細胞の再生が減っていたのである。 さらに、「噛まずに食べるマウス」は「噛むマウス」に比べてどんどん太ってくる。まさに、「マウスの生活習慣病」だ。

これは大きな発見だった。噛む力と記憶との関連はよくいわれているが、鴫むことが睡眠・行動パターンに影響するという報告は初めてだ。これらの結果の一部は、日本のメディアでも取り上げられた。「噛む」という行動をするとき、指令を発するのは脳だ。だが、噛むことで三叉神経から脳に刺激が伝わる。『よく噛む』ことは一日のメリハリをつけるのに役立つのだ。「噛まずに食べる人」になってしまうと、「覚醒と睡眠のメリハリがなくなり、記憶もあやしくなり、肥満になる」なんて、いいことなしだ。 それぐらい噛むことと睡眠はつなかっているので「噛む習慣」を身につけてほしい。ジョギングをする習慣は今や世界的なものだ。アメリカでも日本滞在中でも、ランナーを目にしない日はない。 走るなら、夜よりは朝がいい。走ったり運動したりすると交感神経優位になるので、朝走れば、活動モードに切り替わるからだ。 だが、疲労するまで運動すると肝心の仕事のパフォーマンスが落ちてしまうし、ヘビーな運動は筋肉痛や関節痛を引き起こし、体や細胞を傷つける場合がある。何より問題なのは体温が上がりすぎること。運動で体温が上がるのは活動モードに切り替えるという意味ではいいが、体温は上がりすぎると発汗による熱放散が起きて元の体温より下がる。これは眠気がやってくるサインだった。朝風呂に入ったときと同じ状況になるのだ。 夜しっかり寝て、朝すっきりと起きて、せっかく体温のリズムを合わせたのに、激しいジョギングで台無しになることがある。 何事もほどほどが良い。体のことを考えれば、早足のウォーキングのほうがおすすめできる。少なくとも、汗だくになるような運動だけは避けておこう。

ビジネスパーソンは平均して1日何杯コーヒーを飲むのだろう?少し多いように聞こえるかもしれないか、「5杯ほど飲む」という人もいるのではないだろうか。 2015年の「欧州食品安全機関(EFSA)」では、成人1日約400ミリグラムまでなら安全とされているので、『5杯」は許容範囲だ。むしろ、適量のコーヒー摂取は体にもいいとされ、健康な成人の2型糖尿病、肝臓がん、子宮内膜がんのリスクを減らすというエビデンスも報告されている。ただしカフェインの睡眠への影響については知っておくべきだ。血中のカフェイン濃度は半分になるまで約4時間かかる。そのため、就寝1時間前と3時間前にコーヒーを一杯ずつ飲むと、10分ほど寝つくまでの時間が長くなり、30分程度睡眠時間が短くなるという報告かおるのだ。 とくに、高齢者は睡眠が浅くなり、カフェインを肝臓で代謝する力も落ちてくるため、カフェインの影響を受けやすい。なので、夜遅くにコーヒーを飲みたくなったら、カフェインが入っていない「デカフェ」がおすすめだ。 コーヒーをたくさん飲んでしまうという人は、夕刻からはデカフェに切り替えてしまうというのも手だろう。 個人差もあると思うが、私の場合は午前中の6時に1杯、8時に1杯、10時ごろに1杯。午後は2時ごろに1杯を目安にしている。夜、会食があると食後のコーヒーをいただくが、自宅では夜には飲まない。口中のパフォーマンスを上げ、覚醒のスイッチを押すという意味で、ビジネスパーソンにはコーヒーのテイクアウトをおすすめする。カフェインは基礎代謝を上げ、覚醒モードに体を切り替える力がある。さらに、ほかの刺激と同時におこなえば、相乗効果が期待できるので、「会話」という感覚刺激を加えようという作戦だ。 黙ってコーヒーを入れてデスクで飲むのでは、カフェイン刺激だけで終わってしまう。出勤前にカフェに立ち寄り、口に出してオーダーすれば会話刺激が加わり、さらにテイクアウトして会社の誰かと雑談をしたほうが、相乗効果で覚醒のスイッチかしっかり入る。コーヒーを、カンバセーションツールとして活用しよ カフェインは眠気や疲れ、覚醒時間に応じて蓄積する睡眠圧にも対抗するので、昼食後や午後にも効果を発揮してくれる。私は朝6時にオフィスに行き一人で仕事を開始する。 少なくとも9時ごろまでは電話がかかってくることもなく、アポイントなしで人が来ることもないから、集中できるのだ。意思決定が必要なこと、厄介なことは、たとえ前日の夜に決めていても、一晩おいて、しっかり睡眠をとった朝にもう一度考える。夜に慌てて返信したり、指示を出したりして後悔することがままあるからだ。 同様に、重要なディスカッションも、できれば午前中がいい。 また、論文を書く際も、書き出しを決めたり、論理構築をする書き始めの重要なタスクは朝に取り組む。 頭を使う仕事、重要な仕事はできるだけ午前中に集中したほうが賢明だ。 ランチの時間の後は、徐々にイージーモードの仕事にシフトしていく。眠りに向けて、脳を少しずつリラックスさせていくためだ。 軽いミーティングはリフレッシュになるので、昼食後に向く。また、論文に参考文献をつけたり、調べ物をするといった「手間はかかるがあまり思考を必要としない仕事」は午後におこなう。

坂道をゆるやかに下るように、自分なりのペース配分をし、パターン化していこう。あくまで.例だが、瑣末なことで脳を興奮させないように、私の友人は夕方の支払いは現金ではなくクレジットカードを使うようにしている。 よく認知症の疑いがある兆候として、「小銭がたまる」ことがあげられる。その対策として、会計では小銭を積極的に使って脳を刺激することが推奨されているのだが、夜に関しては、睡眠前はてきるだけ頭を働かせないほうがいい。 つまり、眠りのために認知症対策の逆をいくのだ。良い睡眠がとれていれば、脳にとっても良いはずなので、「夜のクレジットカード」でなるべく頭を使わないことも、その日の眠りには一役買いそうだ。

夕食抜き生活が睡眠に響く

覚醒物質「オレキシン」は脳の視床下部と呼ばれるところの細胞から放出される。絶食するとオレキシンの分泌が促進されるが、食事をすればオレキシンの活動は低下し、覚醒度も落ち着くことがわかっている。 1998年、テキサス大学の腰井武氏、柳沢正史氏(現、筑波大学国際統合睡眠医科学研究職構)らが新しい物質を発見し、動物を使った実験で、「大脳室内にその物質を入れると物を食べる」ことを報告した。この摂食行動こそオレキシンの名前の由来であり、世界的な発見だった。 ダイエットで夕食を抜くと眠れず、そればかりか夜中にたくさん食べてしまった経験がある人もいるだろう。また、徹夜をしていると、いやにおなかがすいた経験もあるだろう。 昔、スタンフォードで学生を使った断眠実験をしているとき、学生が「おなかがすいた」と不平を言い出したので、研究者が夜中のスーパーに食料を買いに走ったことは今でも語り草だ。こうした現象にも、オレキシンが一役買っていると考えられている。オレキシンは食欲を左右すると同時に、もちろん覚醒にも強い影響を与える。夕食を食べないとオレキシンの分泌が促進され、食欲が増大するうえに、覚醒して眠れなくなる可能性が高いのだ。

動物で絶食をさせるとエサを探す「探索行動」が顕著になるが、オレキシンをつくれないナルコレプシーマウスは絶食させても探索行動を増やさない。これは、食欲と睡眠の関係を物語っている。 さらにオレキシンは、交感神経の活発化や体温上昇も引き起こす。 つまり、「夕食を抜いたらオレキシンが増えて、食欲か増すし、脹れない」だけの問題ではなくなるのだ。自律神経が乱れ、あらゆる不調に「付け入るスキ」を見せることになる。夕食抜きは、眠りと健康にとってまさに『百害あってI利なし』なのだ。 夕食をとる場合は、どんなに遅くても眠る1時間前までを目安にしよう。揚げ物など消化に時間がかかるものはさらに余裕をもつ、あるいは夕食には避けたほうがいいだろう。ぐっすり眠るためには深部体温を下げる食品を夕食に取り入れるのも一案だ。 身近なところでいえば『冷やしトマト』。体を冷やす性質があるトマトをさらに冷やして食べれば体温は下がる。レシピサイトではさまざまな趣向をこらした「冷やしトマト」レシピが紹介されているので、便利だ。 また、南国では体温を下げるために『きゅうりジュース』なるものを飲んでいるそうだが、まだ私は試したことがない。 ただし、「冷やしトマトを食べれば絶対脹れる」というわけではない。あくまでこれは補強手段。入眠時に体温を下げるという点においては、入浴に勝るものはないといえる。冷やしトマトのように、眠りに良いとされる食べ物や飲み物はたくさんある。東洋には漢方薬があるし、ョーロッパのカノコソウやカモミールに代表されるようなハープは、何百年も用いられてきた。 眠りに効くのか鎮静に効くのか、それがどれくらい強く効くのか、検証されていない部分もある。しかし

まったく効果かないものは淘汰されていくから、「ずっと飲まれている」という事実が、「ある程度の効果がある」ひとつの証拠だと私は思う。効果があっても「副作用が強いサプリメント」も淘汰される。 逆にいうと、急に脚光を浴びる「科学的根拠のある食品」は、検証されていないものも多い。 たとえば、眠りを促し体内リズムを整えるメラトニンは、「何かどうなってメラトニンになるのか」というメカニズムがわかっている。 具体的には、トリプトファンという物質からつくられ、それがセロトニンになって、メラトニンとなるので、「トリプトファンを含む魚や肉、大豆食品を食べるとよく眠れる」などとよくいわれる。それらの成分を含むサプリメントもある。 だが、私たちは何を食べるかは選べるが、食べ物の『使い道』を自分の意思で選ぶことはできない。 たとえば、自分としては「眠るため」に食べた大豆食品が筋肉増強に使われてしまうこともあるし、逆もある。コラーゲンは肌に良いとされるか「美肌コラーゲンサプリ」を飲んだら臓器の傷を治すために使われていたりする。 使い道を決めるのは「体」なのだ。こうした事実を踏まえたうえで、野菜や肉、炭水化物などをバランス良く食べることを、眠りのためにも意識してほしい。そうすれば、サプリメントやビタミン剤に頼らずともぐっすり眠れる。

睡眠は量ではなく質で決まる。最初の90分か勝負の分かれ目。

体温と脳のスイッチを操れば、ぐっと深い90分が手に入る。そして、起きている間も、眠りとあなたは強くつながっている?。 ここまで、あなたの人生に深く影響を与える「睡眠」の実態を掘り下げ、そして最高の睡眠の鍵となる「90分」を突き止めた。そして、90分の眠りを深める「体温」と「脳」のスイッチ操作法、日中の覚醒スイッチの入れ方も見てきた。 これで、あなたの睡眠は史上最高のものとなり、口中もこれまで感じたことがないくらいコンディションが整っていくはずだ。とはいえ、睡眠に関するあなたの喫緊の問題は何だろう?眠れない?起きれない?それとも、悪い夢ばかり見てしまう?うなずく人もいるかもしれないが、違う思いを抱く人も多いのではないだろうか。 多くの人にとっての目の前の問題?それは、おそらく『眠気』。「日中眠たい」と、覚醒時の眠気に頭をもたげる人もたくさんいるのではないだろうか。 本書の知識やメソッドを体得していただければ、たしかに眠りの質は上がって「あらぬタイミングでの眠気」は少なくなる。 しかし、おそらくあなたにとっては「明日の眠気」が問題であり、「睡眠の質を上げる」前に、「その場で眠気をどうにかしたい」というのが本音かもしれない。 この「眠気の問題」提起は本澄に始まったことではないものの、眠気を追い出す方法として、よくほかの睡眠本では「昼寝」があげられている。しかし、実際問題、『昼寝がいい」とわかっていても、昼寝できる環境にない人がほとんどだろう。 たとえば、大事な会議中眠くなったら?あなたはどうするだろう?

「昼寝をせずに、明日やってくる睡魔にどうすれば勝てるのか?」 眠りを巡る旅の最終章として、この眠気を科学してみたいと思う。 覚醒戦略⑥で記したように、「体温の急上昇」を避けるなどして日中「眠りのスイッチ」がオンになるのを防ぐ予防策をあなたは手に入れた。 では、最後のステップとして、どんなに退屈な会議でも、最後まで意識を保てる「眠気を追い払う即効薬」も手に入れてしまおうではないか。

眠気を制するものが人生を制する

「睡魔」はあなたの敵か、味方か眠りを巡る旅の締めくくりとしてビジネスパーソンを悩ませる「眠気」について考えていこう。 眠気の正体を暴き、それをどう解消するかは、私の専門である「ナルコレプシー」の大きなテーマといっていい。そこで得た知見を、あなたにもシェアし、実際の行動指針も述べていく。人間は16時間連続して覚醒していられるとされるが、眠気というのは、厳密には『まとまった長い覚醒を維持できない状態」のことを指している。 ナルコレプシー患者の場合は、眠気が頻繁に起きるし、入眠潜時が1〜2分と極端に短い。そのため一日中眠気があり、入眠に時間がかからないから一瞬で居眠りをするように見える。「ナルコレプシーの眠気」で特徴的なのは、短い昼寝をすると眠気が一時的に消えることだ。しかし、それは長続きせず、2時間ほどすると、また耐えがたい眠気に襲われることに。 健康な人の場合、極端な睡眠不足でもない限り、眠気は一日中続くわけでもないし、入眠するにも多少の時間がかかる。 前述したスタンフォードの「A 90 minute day」実験では、ナルコレプシーの患者と健康な人を比較している。すると、健康な人でも1日のうち14時ごろが眠ってしまいやすい時間だとわかった。うとうとしてしまう午後の眠気、これは『アフタヌーンディップ』と呼ばれる現象だ。 アフタヌーンディップの原因は、大きく分けて2つある。1つは、睡眠負債によって睡眠圧が増してくること。もう1つは、「サーカディアンリズム」や90〜120分でやってくるとされる「ウルトラディアンリズム」

などの体内時計の問題である。 どららの影響にせよ、眠気に襲われて困るのは、

大きく分けて以下の3つだと思う。
・朝起きても眠気が消えないパターン。・昼食後眠気に襲われる『アフタヌーンディップ』のパターン。・日中、たとえば退屈な会議中にやってくるおなじみの『眠気』。 いずれにせよ、知識を得てからのほうが眠気とつきあう方法も納得して実行しやすいので、まずは順番に原因を探っていこう。何とか目を覚まし起き上がったもののさっぱり眠気がとれない。出勤まで時間もなく、朝の光とシヤワーを浴びて朝食をとらなければいけないのに、眠くて朝の光を浴びながらぼんやりしてしまう……。 こんな一日の始まりの裏には何か隠れているのだろう。 まず考えられるのは、慢性的に睡眠が足りず、「睡眠負債」を抱えていることだ。あまりにも睡眠が足りていなければ、少し寝たくらいでは負債は返済できない。 また、こういう状態だと短い昼寝でもリフレッシュできないことも加えておく。「仮眠」の効果が最近よく取り上げられていて、たしかにナルコレプシーの患者は短い昼寝でリフレッシュできるのだが、睡眠負債からくる眠気においては、短い昼寝で眠気を解消するのは難しいだろう。 もし、「起きがけの眠気」が何日も続くのに、睡眠不足の自覚がないなら、睡眠時無呼吸症候群を疑ってほしい。眠っている間、無呼吸になって脳が覚醒反応を示しても、必ずしも完全に起きるわけではないので、無呼吸の自覚かない場合が多い。

睡眠のパターンが乱れると、目覚めやその後の活動の準備ができない。 過度の飲酒や慢性的な睡眠不足は乱れを助長し、明け方になっても「長いレム睡眠」が現れにくい。そのため、ノンレム睡眠から無理やり起床する可能性が強まり、目覚めが悪くなるのだ。 生活リズムの乱れは、そっくりそのまま睡眠リズムの乱れにつながる。そうなると「眠り始めの90分」は簡単にさぴつき、活動の準備か整わない。さらに、最初のノンレム睡眠の大事な役割である「睡眠圧の解消」もうまくできないため、明け方になっても眠気が残ってしまうのだ。そのため、起きても脳がボーッとする。この、残った眠気に脳が引っ張られる現象を『睡眠慣性』という。 このページでお伝えしてきた「眠り始め」を損なわないよう工夫するとともに、目覚まし時計をウィンドウでセットするといった方法で、起床のタイミングもレム睡眠のときにうまく合わせてほしい。「アフタヌーンディップの原因はる人もいるだろう。睡眠負債とサーカディアンリズムの影響が大きい」と言うと、首をかしげ決まって、「えっ、ランチを食べたせいでしょう?」と反論があるのだ。だが、これまたスタンフォードの研究で『昼食は午後2時ごろに起きる入眠潜時の短縮(眠気の襲来)には関係ない』という実験結果が出ており、生物的に、ランチは午後に眠くなる要因ではない。 アフタヌーンディップ対策としてもさまざまなことが試された。なかでも、効果が見られたのは「朝1〜2時間長めに眠る」という朝寝坊法。朝寝坊をすれば、アフタヌーンディップが多少軽減するというわけだ。 といっても、「遅寝遅起き」はおすすめしない。「起きる時間を遅くすると、午後の眠気が軽くなる」なら、それは慢性的に寝不足であることを示す証拠にほかならない。

そもそも寝不足自体に午後の眠気を強める作用があるので、この朝寝坊法は「その日しのぎ」の対策で、根本解決にはならない。いつか必ずツケを払わされる。 ただし、私たちの多くは「ランチの後は眠い」という自覚があるのも事実だ。いったい、どういうことだろう?「食事をとると、消化のために腸に行く血流が増えて、脳に行く血流は減る」とよくいわれるが、どんな状況でも脳血流は第一に確保される。 なので、ランチ後の眠気は血流の問題ではない。「満腹感によって意欲が低下し、何もする気が起きず、眠いと感じる」というのが私の見解だ。 ランチ後に訪れるのは、厳密にいえば『眠気とは違う倦怠感』といったものだろうか。両者はなかなか区別がつきにくいが、少なくとも「朝食後眠い」というのは、間いたことも、経験したこともない。 14時ごろにやってくる「けだるさ」とランチは関係がない。そして、これは「眠気」とも違う?そうはいっても、実際に問題が起きているのなら、対処する必要がある。 私が心がけているのは、ランチにはヘビーミールを選ばないこと。あまりに重い食事をとると血糖値にも影響が出て、極端な場合はオレキシンなどの覚醒物質の活動を抑え?てしまう可能性もある。私は、仕事を始めたら昼は食べないという習慣を続けており、それが体質に合っているようだ。現代社会において、ヒトは捕食動物ではないが、空腹時にはオレキシンの分泌も増え、覚醒度が上がる。 たまに来客があると、スタンフォードの教員用ラウンジでランチをとる。種類が豊富でサーブも早いブッフエなので来客には喜んでもらえるか、私自身はハーフサイズのサンドイッチのみだ。 渡米したばかりのころは、私も喜んであれこれ食べていたが、午後ボーッとして使えなくなってしまうので、今のスタイルに落ち着いた。

当たり前のようにハーフサイズが用意してあるということは健康ブームの影響もあるだろうし、「昼は軽く」というニーズがスタンフォードの職員には多いのだろう。 もっとも、日本人の私には「これでハーフか?」と首をかしげるところもあるのだが、アメリカ人の通常の食事量からすると抑えてあることは間違いない。 ランチは軒めで、ヘビーミールを避ければ、午後の倦怠感防止に役立つはずだ。また、食べるときも、章でお伝えしたように「噛む」ことを意識してほしい。ただしそれだけでは「眠気」は回避できない。 なぜなら、ランチをとろうがとるまいが、アフタヌーンディップの影響で14時ごろには必ずといっていいほど「眠気」がやってくるからだ。それに、14時以外の時間帯でも「眠い」と感じることも多いのではないだろうか。 99%の人が、次のような「寝てはいけないとき」に眠気を感じたことがあるだろう。・大学の授業中、机につっぷして眠ってしまった。・部長ばかりがしゃべる長い会議中、うつらうつらしてしまう。・単調なデスクワーク、気がつくとよだれが書類に垂れていた・・。 アフタヌーンディップに限らず、なぜ「眠気」はやってくるのだろう?。 突然襲ってくる睡魔はこれまで見たとおり、体温や室温の変化によって誘導されることもあれば、ひょっとするとあなたの睡眠量が十分でなかったり、質が悪かったために起きているのかもしれない。 なので、基本的には「最初の90分」の言を高めれば、睡魔に出くわす機会も減る。 ただし、そうはいっても、明日から即「最高の睡眠」に変わるとも限らない。

ここからは、目先の「眠気」にどう立ち向かえばいいのか、スタンフォード式のアンチスリーピング術を述べていこう。ぜひ、明日のお昼にでも思い出してほしい。たちどころに眠気が消え、クリアな財界があなたの元へ戻ってくるはずだ。

睡魔に打ち勝つ「アンチスリーピング」メソッド

「会議のときに眠たくなる」 これは多くのビジネスパーソンが抱える悩みだが、こと日本の会議ではアメリカ以上にうなだれている人か多い印象だ。 眠気について人種差があるというエビデンスはないし、仮にそのような報告があっても緯度の違いによる日照時間や平均気温などを厳密に検証しなければいけない。 そもそもアメリカ人といっても白人、黒人もいればラテン系もアジア系もいる。西海岸はとくにアジア系が多いか、彼らが会議でうとうとすることは滅多にない。 私か思うに、会議中の眠気は生理的な問題ではなく、多くの場合、会議の「運営法」の問題だ。 日本の場合、会議は基本長時間。メンバーも厳選されておらず、「とりあえず顔を出して座っているだけ」の人も少なからずいる。 また、会議の進行が固定されており、「誰が冒頭で説明をし、それについていつ、誰がどんな意見を述べるか」か暗黙のうちに決まっているような気がする。 たとえば私が日本でセミナーをするときは、決まって終わりに質問コーナーがあるが、なかなか最初の一人の質問が出ない。沈黙が続くと、座長やその大学の教授が、「○○君、何か質問ありますか?」と、暗に質問者を指名する。 アメリカでは絶対にないことだ。 アメリカの会議は短い。1時間、あるいは30分など終了時間があらかじめ決まっており、要件が終わればそこで会議終了。終了時間が設定されているので、多くのメンバーは次の予定を入れている。 メンバーも必要最小限だ。そして参加したメンバーは、必ず自分から発言する。質問コーナーでなくても、聞きたくなればすぐに質問するし、意見も述べる。 とくに私がいる西海岸では、深く考えなくてもとりあえず意見を言う人が多い。「意見を言わなければ、後でいくら文句を言ってもしかたがない」という風潮なのだ。 これはアメリカに『発言しない者はそこにいないのと同じ』という文化があるためだ。小学生であっても黙っていたら授業に出ていないと見なされる。黙っていることさえ価値がないのだから、会議や授業中に眠るなんて言語道断だ。 前述したとおり、会話は覚醒の強いスイッチとなる。なので、積極的に発言すれば眠気は感じずにすむ。 アメリカでは学会であっても、「よくわからないのですが」「聞き逃したかもしれないのですが」と質問する人がいるし、私自身もする。 全体を理解しようとしたり、理解を深めようとしたりしているのだから、「わからない」というのは恥ずかしいことでも何でもない。わからないのに知ったかぶりをするほうが恥ずかしい。 専門外の話だと的外れなことを聞くかもしれないが、「それは当たり前だ」という認識かみんなにあるので、ためらいもない。本書でハウツーのみならずエビデンスをお伝えしているのは、知識は力となるからだ。正しい知識があれば、人から与えられる間違った情報を排除できるし、自分自身でハウツーをつくり出し、時代の変化に合わせてアップデートもできる。 ミーティングでは質問しよう。細かなことでもいいから発言しよう。疑問はその場で解消しよう?そう強く思えば、眠気も少しずつ姿を消すはずだ。 覚醒系を司る神経細胞(ニューロン)は複数あり、機能を分担している。それを利用して眠気を撃退する方法を、ぜひ覚えておいてほしい。覚醒のときに活発になるニューロンとしては、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミンがある。オレキシンも覚醒と関係している。なかでも、最後に見つかったオレキシンは親玉的存在で、ほかの覚醒系物質を支配している。 ドーパミンについては意見が分かれるところだが、地震のときに飛び起きるとか、火事場のバカカを発揮するなど、「エマージェンシー」に備えた覚醒に関連していると思われる。なぜ、覚醒のニューロンが複数あるかといえば、覚醒時にはそれに伴ってさまざまな生理現象が生じるからで、よくある『緊張』『集中』『注意」なども覚醒の重要な行動状態だ。 一方、ノンレム睡眠では脳全体の活動量が低下し、役割もいわば「受け身」の状態で、まさに「フラジール」なのだ。なので、ノンレム睡眠時に活動する神経細胞は限られており、ほぼ視床下部に固まっている。 つまり、覚醒を呼び戻すには、ノンレム睡眠時に比べるとはるかにたくさんあり、役割が分担されているそれぞれの覚醒スイッチをオンにしない手はないのだ。

たくさんある覚醒のスイッチを、仕事中にオンにするには、いろいろなやり方がある。たとえば、「ガム」だ。 「噛まずに食べる「眠気の多い」マウス」について記したが、噛むことで脳は活性化されるという性質を利用しよう。経験として実感しているかもしれないが、ミントやカフェイン入りのリフレッシュ効果や覚醒効果がある成分が入ったガムをよく噛めば、「覚醒成分の刺激」と「噛む刺激」の2つが同時に手に入る。「眠くなったら、コーヒー」というのも定番の覚醒スイッチだ。カフェインには覚醒作用があることは確認した。メーカーによって差はあるが、エナジードリンクの類いにはもれなくカフェインが入っていて、カフェインは世界中でもっとも消費されている覚醒系の物言である。「カフェインといえばコーヒー」というイメージが強いが、実は緑茶や紅茶にもカフェインは含まれており、とくに抹茶の含有量は高い。もちろん、カカオ豆から作るチョコレートやココアにも含まれている。では「ホットコーヒー」と「アイスコーヒー」、どちらが目覚めに効くだろう? ホットコーヒーやみそ汁など温かいものを飲めば、多少は体温が上がり覚酸度が上がる。なので、飲み物なら冷たいものよりも常温、もしくは温かいもののほうが覚醒を助ける。「深部体温と皮膚温度の差が開くと、眠気が弱まる」ことに関連して、「冷たい缶コーヒーを持てば、手を冷やして眠気は飛ばせるか?」と聞かれたことかある。 理論的には成り立つのだが、残念ながらエビデンスはまだなく、直接的な覚醒作用は薄いだろう(そう意識することで、脳が一時的に働くかもしれないが)。 ただし、効果があったという人もいるので、5分間ぐらい持てば、覚酸度を上げられる可能性もある。

この手を使う体温調節については、実はさまざまな可能性がある。 体温調節を専門にするスタンフォードの生物学教授のクレイグ・ヘラー氏らは、肘から先を入れる小さなドームのようなデバイスを開発した。これは吸引して手の血管を拡張させる装置で、効率良く体を冷やしたり温めたりすることができる。 スポーツでは冷やすことで疲労が回復したり、運動能力が上がる効果が確認されている。 実際、ボクシング選手にこの装置を着用してもらったところ、「疲れが全然出ないので、トレーニングの効率が上がる」とのことだった。また、ある学生に着用後懸垂をしてもらったところ、普段よりも多くの回数をこなせ、筋肉も効率良く鍛えることができた。アメフトのチームではすでに応用しているところもある。 野球選手のパフォーマンス向Lにも一役買えそうで、とくに東京ドームなど室温が高いところでは高い効果が期待できる。 肘下の血管を拡張させるだけでトレーニング効果がにがり、体力も温存できるので、スポーツ競技で秘密兵器になりそうだ。熱中症患者への応用も期待されている。 また、体を急速に温めることも可能なので、手術中の麻酔で急激に体温が下がった患者や、潜水後に体温が上がらなくなったダイバーヘの応用も考えられている。 これほどまでに、手が体温にもつ影響力は大きいのだ。

世界のトップがやっている超一流の仮眠術

ここで最近よくいわれている「パワーナップ」(仮眠)についても書いておきたい。

サルの睡眠について調べてみると昼寝が多いことがわかる。人間の場合は社会生活をしているので14〜16時間連続して起きているのが普通だが、種としてのヒトは、進化の過程で昼寝をとっていた可能性もある。 実際にスペインなどの国では、しっかり昼食をとったあとに睡眠をとる「シエスタ」と呼ばれる風習が浸透している地域かおる。午後3時ごろになると、商店、企業、官公庁などの多くが休業時間をとるようだ。ヒトの場合、前述のように14時ごろ眠くなるという実験結果が出ているか、このアフタヌーンディップは、霊長類には避けられない睡眠パターンなのかもしれない。 病的なレベルだと問題だが、多少覚醒水準が落ちたり、パフォーマンスが下がったりする程度なら自然な生理現象だ。つまり、ヒトであれば、眠気をさほど敵視する必要もないし、身の危険もないのである。 人脈にはさまざまな条件が必要だが、『眠たい』ときは体温や脳の眠りの条件が整った数少ない瞬間だから、実はチャンスタイムだ。 仮眠5分前に温かいものを持つなどの工夫をして手を温め、スムーズに深い仮眠に入れれば、眠気をこらえて起き続けるよりもパフォーマンスが上がるだろう。「眠気=排除すべきもの」という意識を、「眠気=チャンス」とスイッチしてみる。この発想の転換で、アフタヌーンディッブも味方につけられるだろう。 Googleのやナイキなどの勤務時間中に昼寝を推奨している西海岸の企業は、パワーナップの効果を知っているのだろう。また、仮眠用のスマホアプリも出ているようだ。パワーナップの効果は実験データとしても表れている。ここでまた、「タブレットの画面に丸い図形が出るたびにボタンを押す」実験に場面を移そう。 この実験では覚酸度をしっかりとらえられるよう、リアクションタイムを計っているわけだが、「13人の被験者で90時間近く連続で起きていたらどうなるか」という実験もしている。 起きている時開か長いほど、反応に時間がかかったり、ボタンを押し間違えたりする「反応ミス」がどんどん増えていく。この結果は想定内だが、連続して起きている12時間おきに2時間、仮眠をとると(1日4時間)、ミスが減ることがわかった。ただし、4時間の仮眠で、反応時間を完全に正常化することはできなかった。

 

今回は12時間につき2時間の仮眠タイムを設けたが、これは一般的ではないだろう(これも、ビジネスパーソンに仮眠をおすすめしきれない理由のひとつ)。だかご安心を。『20分』程度の仮眠でも、ある程度リアクションタイムが回復することがわかっている。 日本の会社が率先して昼寝ができる職場環境を整えるのは、まだ先の話かもしれないが、我慢に我慢を重ねて全体の効率が落ちるより、たった「20分の仮眠」でそのほかの時間、力を出せるようになるほうがはるかに良いとは思わないだろうか。かように仮眠の効用はあるがあくまでも「仮の眠り」という点に注意してほしい 2000年、口本の国立精神・神経医療研究センターの朝田隆氏、高橋清久氏らが高齢者337人のアルツハイマー患者とその配偶者260人の「昼寝の習慣と認知症発症リスク」についての解析をおこなった。 興味深いことに、『30分未満の昼寝』をする人は『昼寝の習慣がない』人に比べて、認知症発症率が約7分の1だった。また、「30分から1時間程度昼寝をする」人も、「昼寝の習慣かない」人に比べて発症率が約半分になることがわかったのだ。これだけみると「昼寝は認知症を遠ざける」といえそうだが、話はそんなに単純ではない。なんと、『一時間以上昼寝する』人は、『昼寝の習慣がない』人に比べて発症率が2倍も高かったのである。 昼間にちょっと寝ようというとき、30分以上もぐっすり寝てしまうというのは、すでにアブノーマルな老化や疾患がある可能性もある。 そうでなくても、ビジネスパーソンが30分以上昼寝をするというのは、物理的に難しいうえ、集中力が低下したり、睡眠慣性による弊害(寝ぼけ)も起こしかねない。

昼にぐっすり寝てしまうと、健康で若い人であっても、夜に睡眼圧が上がらず、スムーズに大服できない可能性もある。もちろん、脳への影響も考えられる。こうした要素を考えると、『仮眠をとるなら20分程度』とするのが良さそうだ。

「細切れ睡眠」は有効か?

私はアメリカではキャンパスの隣の市から自転車で移動している。実はシリコンバレーでは今、交通渋滞が問題になっており、自転車で15分かからない通勤が、車だと1時間近くかかることもある。また、年間を通じて気温は安定していて湿度も低いので、束の間のサイクリングは非常に快適でもある。日本だと電車通勤が多いと思うか、よく席に座って眠っている人を目にする。 ちなみに電車内の仮眠はたいていノンレム睡眠だ。体がびくびくしたり眼球運動が出ない人のほうが多いだろう。座ったままの不安定な姿勢では、そう簡単にはレム睡眠は出てこないのだ。深い睡眠にいきなり入るので、目覚めは当然悪い。 日本で企業向けの講演などをすると、「朝晩の電車での細切れ睡眠は、睡眠不足解消に役立ちますか?」という質問を受ける。 結論からいうと、連続して眠った6時間と、細切れで眠ったトータル6時間は質がまったく違う。スリプサイクルが、細切れでは正しく現れないためだ。 いずれにせよ、電車の仮眠は睡眠の問題解決につながるのだろうか? これこそまさに「better than nothing」だ。まったく寝ないよりも短い時間でも仮眠するほうがいいが、細切れ睡眠で完全に補完するのは不可能。あくまで補助的なものとしてとらえよう。 あらかじめ「家のベッドで4時間、朝夕の通勤で2時間、合計6時間睡眠だ」というようにパターン化するのは、苦肉の策としかいえない。

「電車で寝るから大丈夫」というのが日常的な人は、長期的なパフォーマンス低下や、体に悪影響を与える可能性も踏まえて、考えを変えるほうが良さそうだ。日曜日の夜になると「ああまた月曜日が来る」と憂うつになる。目が覚めても覚醒するどころか「もう月曜が来てしまった」と気が沈む。いわゆる『ブルーマンデー』も、睡眠によってコントロールできる。 週末というオフタイムから月曜日というオンタイムにうまく切り替えられないのは、リズムの問題もある。金曜日に飲みに行き、土曜日は家族と出かけてという行動をしていたら、就寝時間が遅くなり、そのあおりを食らって起床時間も遅くなる。すると、後ろへとリズムがずれるうえに、睡眠の量も質も下がってしまうことに。 土日の朝、いつもより1〜2時間多めに眠る(起床時間を後ろにずらす)くらいならとくに問題はないといえる。それは体が必要としている眠りだからだ。 実際、私も土曜日に少し多めに眠るようにしているのだが、あるとき懇意にしている隣人の老婦人のPCが壊れたことがあった。困っているらしく「土曜日の朝、一度みてあげてほしい」と妻から頼まれ、修理のため、いつもの土曜日より早めに起きた。 しかし、体が欲する眠りがとれなかったからだろう、こんな些細なことで翌週体調がすぐれなかった覚えがある。週末は、「いつもどおり」を心がけよう。とくに、平日より少し多めに眠るとしても、就寝時間はウイークデーと同じにするのがおすすめだ。

私たちの研究室でおこなう「ラボミーティング」は月曜日にセッティングしている。残念ながら会議室の空き具合の関係で午後1時開始だが、この会議室の予約状況を見てみると、ラボミーティングは月曜日に集中しており、しかも朝8時からぎっしり埋まっている。 医学部の臨床会議も「月曜朝7時」や「8時」が多い。「月曜朝7時出席」を2〜3年も続けていると、週末の生活パターンも当然変わってくる。 チーム運営に悩むりIダーなら、月曜朝に会議を持ってくるのもひとつの手だ。これだけで部門のパフォーマンスが格段に変わってくる。ただし、その分夜の長い会議や、仮眠を促す無駄な集まりは廃止したほうが賢明だろう。ミーティング自体もコンパクトにしたほうか、ブルーマンデーには効果的だ。 個人レベルであれば、月曜日の午前中に重要なタスクを持ってくるなどして、ある程度強制力を働かせるのも手だ。また、管理職の人は部下の健康管理(とくにうつ病やアルコール依存症、不安神経症などの予防)のためにも、『睡眠衛生の重要性』を常に頭においてほしい。 眠れていなさそうなら、「ちゃんと眠れているか?」と一言声をかけるところから始めてほしい。うつ病などによる自殺(月曜日に多いといわれる)が深刻化しているが、適切な睡眠マネジメントでかなりの改善を望むことができるのだから。

人生の3分の1を変えれば、残りの3分の2も動き出す

どんな科学的な納涼でもできない脳や臓器のメンテナンスが、睡眠中だけできる。

科学者や医者が何人集まってもできない体内リズムのバランス調節が、眠るだけで整う。 睡眠の役割は、睡眠にしかできないことだ。このほかにも、まだわかっていない機能が睡眠にはあると考えられている。 ありふれた言葉になるが、睡眠にはいまだに「未知の領域」が多く、まさに、人体の不思議なのだ。 睡眠はすべての医学の基礎であり、高血圧、心臓疾患、認知症などさまざまな不調にかかわりがあると考えられている。整形外科から出発し、リハビリ、ケガの治療、予防がメインだったスポーツ医学でも、今では『睡眠こそがすべての基礎である』という認識に変わりつつある。 睡眠管理をすればパフォーマンスの向上はもちろんのこと、ケガや産業事故の予防にも大きな役割を果たす。リハビリ中に質の良い睡眠をとれば、回復が早くなることも十分考えられる。 アスリートは、試合という短い時間に最高のパフォーマンスをしなければならない。練習量は膨大だが、たいていの競技には年齢によるピークがあるため、人生の短い期間だ。 つまり、アスリートの場合は「練習と試合」というサイクルが、通常の仕事や学問に比べて極端に凝縮されているということだ。 私は睡眠の専門家としてアスリートとかかわることがあるが、彼らを見ていると、研究をする私や、多様な業界で働くビジネスパーソンの人生を凝縮したモデルのように感じられるときがある。「90分を1日に見立てる」実験のように、アスリートを知ることによって、一般の人の人生が短時間で観察できる気がしてくる。短期間で成績を残さねばならない分、彼らは真剣に睡眠と向き合う。そして眠りの力を認識し、力を入れて取り組んだ選手こそがI流になれることは、研究データを見ても明らかである。 その「アスリートが睡眠を大切にしてパフォーマンスを上げている」ことは、「ビジネスパーソンが睡眠を大切にしてパフォーマンスを上げる」エビデンスになる、そんなことを考えたりもするのだ。本吉でお伝えしてきた睡眠の知識は基礎から最新情報まで、日常に即した形で網羅したつもりである。 だが、睡眠についてわかっていることは、今もまだごく一部。 それが最新の情報が集まってくる、睡眠研究の「メッカ」とされるスタンフォードにいて、睡眠について30年以上研究を続けてきた今の、正直な実感である。 たとえば、夢についてはまだ解明されていない部分が多い。過去のトラウマや日ごろ気になることがあったら、何度も夢に現れるのはなぜ?繰り返し同じ夢を見る理由は?夢が身体的、精神的な状況に影響を受ける理由は?日中イヤなことがあれば、眠りがそれに左右されるのは本当か?夢ではストーリーが途中でいきなり始まったり、断片的なのはなぜだろう? 奥深く、解明されていない未知の部分が多いのは、ロマンかおる学問ともいえる。 睡眠に限らず脳科学のほとんどは、いまだに人類最大のブラックボックスだ。だからこそ、可能性に満ちている。 あなたはすでに覚醒中、あらゆる努力や工夫をし、パフォーマンスを上げようとしているかもしれない。でも、それは人生の3分の2の部分の努力だ。 そもそも質の良い眠りができていないから睡眠の分断が起こり、睡眠の分断が原因で覚醒の分断が起こる。何度も繰り返しているとおり、覚醒と睡眠は2つで1つだ。

あなたが現状の仕事や生活に満足していないのであれば、手つかずの残りの3分の1を改善しよう。それが残りの3分の2にも良い影響をもたらすのであれば、まさにレバレッジの効果かある。デメント教授の言葉を借りれば、睡眠は眠っている以外の人生においても『ギフト』なのだ。 良い睡眠は、習慣にさえしてしまえば、さほど努力は要さない。いわば夢を叶えるもっともシンプルな方法だ。正しい知識を身につけ、行動を変える。さあ、ぐっすりと黄金の90分を眠ろう。きっと、「果報は寝て待て」の言葉どおりとなる。

睡眠研究の最前線「スタンフォード」で見つけたこと スタンフォードで睡眠と向き合って、早30年を超えた。その間、シリコンバレーは急発展し、交通量も急増。渋滞も深刻化してきたため、今自転車で大学に通勤していることは先にも書いた。かれこれ7年前から、このスタイルだ。 体を通る風を心地よく感じていたとき、ふと、横で何列にも広かって、じっと前進する機会をうかがっている車の大群か目に入った。「この何百台と並ぶ車の中で、眠気を感じている人はどれくらいいるのだろう?「帰宅後、何人の人がぐっすり眠れるのだろう?」「何の睡眠障害もなければいいのだが」と切に思うと同時に、排気ガスによる環境汚染が叫ばれている中、人間の睡眠環境も悪化の一途をたどっていることが頭をよぎる。「睡眠で苦しむ人を救いたい」、私のこれまでの研究も、眠りのネガティブエフェクトを取り除くことに注力してきた。「睡眠の苦しみを取り除く」?これこそが私の使命であり、そしてスタンフォード睡眠研究所のスタイルである。睡眠障害は国際診断基準だと80種類以上に分類される多極多様で複雑な疾患群である。不眠症、睡眠時無呼吸症候群などは頻度も多く、いってみれば、「誰もが睡眠障害予備軍」のようなところかある。 私の専門はナルコレプシーという原因不明の通訳症で、スタンフォードで1987年から30年にわたって研究を続けてきた。

 

エチラーム(デパスのジェネリック)など睡眠薬通販は、こちら→お薬館

 

 

 

 

 

-睡眠
-

執筆者:

関連記事

睡眠薬SleepingPills

エスゾピクロン・デジレルの効果と副作用

・2018年7月5日 眠れないという悩みを感じていましたので、昨晩は、海外の個人輸入代行サイトから注文をさせてもらっていた、エスゾピクロンという睡眠薬を利用させて頂きました。 エスゾピクロンとは、30 …

睡眠メカニズム

睡眠の脳内メカニズム

目次1 睡眠の脳内メカニズム2 ブレメーとヘスの業績3 覚醒中枢の発見4 レム睡眠をコントロールする中枢4.1 この記事を見た人はこんな記事も見ています 睡眠の脳内メカニズム 睡眠の脳内メカニズム フ …

睡眠薬と生活習慣の改善で快眠を実現する方法

目次1 快眠スキルを高める2 眠り方を見直そう眠り方を見直そう3 眠る前の入浴で快眠できるワケ4 診断から治療終了まで5 治療の基本は薬物療法5.1 効き目が続く時間5.2 効き方のメカニズム5.3 …

睡眠すっきり

人間はなぜ眠るのか?

目次1 睡眠の必要性2 1日8時間の睡眠は必要?3 「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」4 寝てから90分で深い睡眠をとる!5 睡眠のタイプ6 目覚めをスッキリする7 朝、起きられない原因は何だ?8 体内時 …

睡眠法

デキる男の睡眠法

目次1 睡眠はどこまで切りつめられるか2 超短縮睡眠法の開発3 自己覚醒法4 シエスタ(昼寝)は自然?5 長さは20分が最適6 睡眠不足への効果7 短時間仮眠の効果8 高齢者の昼寝は禁止すべきか9 位 …